愛と夢の条例
(令和6年1月18日更新)
【はじめに】
〇 ちょっと息抜きの感じで、「愛」や「夢」にまつわる条例を集めてみた。もう少し数と種類が多いと思っていたが、思いのほか少ないという印象である。地方公共団体に関する基本的事項や住民の権利義務に関する事項を定める条例としては、やはりというべきかもしれない。
〇 条例名で「愛」が使われているものは、地名に係るものを除くと全国で60以上あるが、その多くは施設や基金の設置条例である。施設では「ふれ愛センター」、「ふれ愛の里」、「ふれ愛プラザ」、「愛ランドセンター」などがあり、基金では「愛の基金」、「愛の福祉基金」、「愛の架け橋基金」、「ささえ愛基金」などがある。
〇 また、条例名で「夢」や「ゆめ」が使われているものが、全国で150以上あるが、基金に係るものが多い。子ども、教育、青少年等に関する「夢基金」や「ゆめ基金」などである。また、施設に係るものとしては、「夢パーク」、「夢広場」、「夢ホール」などの設置条例がある。なお、自治基本条例、まちづくり基本条例、子ども条例、子育て条例などでは、例えば「子どもたちが夢と希望をもって育つことができるまちづくり」などのように、本文中で「夢」という言葉が使われることが多い。
〇 「愛」にまつわる条例で、また、これまでユニークな条例として知られていたものとして、三重県紀勢町の「キューピット条例」がある。同条例は、「中年齢者の結婚を促進することにより、生計意欲を助長し、家庭環境づくりと定住人口の増加を図り町の活性化に寄与すること」(1条)を目的としていたが、平成17年2月に市町村合併により紀勢町が廃止され大紀町が設置されたため、廃止されている。
〇 以下、「愛」や「夢」にまつわるものとして、いくつかの条例を紹介する。
【愛】
滋賀県草津市 | 平成19年12月27日公布 | 平成20年4月1日施行 |
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愛知県豊田市 | 平成29年3月22日公布 | 平成29年4月1日施行 |
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埼玉県川口市 | 大きな声で川口が大好きだと叫んでみませんか川口プライド条例 | 令和4年12月23日公布 | 令和5年4月1日施行 |
栃木県高根沢町 | 平成19年9月14日公布 | 平成19年9月14日施行 |
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福島県川俣町 | 平成5年3月24日公布 | 平成5年3月24日施行 |
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香川県高松市 | 平成20年12月22日公布 | 平成21年5月1日施行 |
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北海道湧別町 | 平成21年10月5日公布 | 平成21年10月5日施行 |
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愛媛県四国中央市 | 暮らせる愛ある社会を目指す条例 |
令和3年9月29日公布 | 令和3年9月29日施行 |
群馬県嬬恋村 | 平成20年3月13日公布 | 平成20年4月1日施行 |
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北海道恵庭市 | 平成20年11月1日公布 | 平成20年11月1日施行 |
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茨城県つくば市 | 平成21年3月24日公布 | 平成21年3月24日施行 |
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高知県須崎市 | 平成20年3月27日公布 | 平成20年4月1日施行 |
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鹿児島県屋久島町 | 平成20年3月31日公布 | 平成20年4月1日施行 |
〇 草津市条例は、「地球温暖化対策条例」であるが、地球温暖化問題は、特定の人々の問題ではないため、条文には平易な表現を使用し、また小学校4年生を基準にルビを付すなど、誰にもわかりやすい条例として制定されている(草津市HP「愛する地球のために約束する草津市条例」)。本条例での「愛」の対象は地球であり、条例名を「愛する地球のために約束する草津市条例」とし、前文では「地球を愛し続ける決意を込めて、地球温暖化を防ぐとともに気候も変動に適応するための条例を制定します。」としている。
〇 豊田市条例は、「WE lOVE とよた」の取組を推進するため、制定されている。基本理念(1条)及び行動計画(2条)の2条から構成されている。前文で、「愛情と誇りを持って行動し、魅力にあふれたまちを次の世代に引き継いでいきたいと願っています。」としており、「市民等のこのまちへの愛情と誇りを高め自発的な行動に繋げるとともに、幅広い市民等の参画を促すことを狙い」(豊田市資料「「WE lOVE とよた」条例の解説」8頁)としている。
〇 川口市条例は、「川口プライド」を「 川口に対する愛着、誇り、共感を持ち、自ら進んで、大きな声で川口が大好きだと叫びたくなるほど、川口をもっと良くしていこうとする心意気」(2条1号)と定義づけたうえで、川口プライドを育むことを目的としている。こうしたシビックプライドを高めるための条例については、「シビックプライドに関する条例」を参照されたい。
〇 高根沢町条例は、食育及び地産地消の推進を目的としている(「食育・朝ごはんに関する条例」及び「地産地消・食のまちづくりに関する条例」参照)。特に「ハートごはん」の定義規定は置いていないが、前文で「まごころ(ハート)を込めて育てた農産物を、愛情(ハート)を込めて料理し、感謝の気持ち(ハート)をもってごはんをいただくということを大切にして、高根沢町の食文化を伝え育んでいくことが、これからの私たちの責任です。」としている。
〇 川俣町条例は、「友♡ゆう♡の日」を定めている。「友♡ゆう♡の日」には、「町は、家族や子供たちが楽しく学習できる機会の設定を積極的に勧めて行くものとする。」(3条)としている。条例の題名及び本則で、いわゆるハートマークを使用しているが、その趣旨は必ずしも明らかではない。条例でハートマークのような記号を使用できるかどうかについては、自治体法制雑務雑感「条例に「絵文字」は入れられるか?」が論じている。
〇 高松市条例は、「純愛の聖地庵治・観光交流館」の設置条例であるが、庵治町(あじちょう)は映画「世界の中心で、愛をさけぶ」のロケ地になった場所である。だから、「純愛の聖地庵治」なのである。同施設には、映画に登場したロケセットである「雨平写真館」が復元されている(純愛の聖地庵治・観光交流館HP「施設案内」参照)。
〇 湧別町条例は、条例名だけを見ると何の条例であるかはよくわからないが、「Family 愛 Land You」という施設の設置条例である。施設名の由来は必ずしも明らかでないが、国道238号線沿いのサロマ湖を望む小高い丘に遊園地であり、日本最北の観覧車のほか、サイクルモノレール、グレートポセイドン、ゴーカートなど、子どもから大人まで楽しめるアトラクションが揃っている(湧別町HP「遊園地「Family 愛 Land You」」)としている。
〇 四国中央市条例は、障害者差別解消を図ることを目的としている(「障害者差別解消に関する条例」参照)。「障がいのある人もない人も、お互いの人格と個性を尊重しあいながら、支え合い、学び、生き、共に安心して暮らせる愛ある社会を目指す」(前文)としている。議員提案により、制定されている。
〇 嬬恋村、恵庭市、つくば市、須崎市及び屋久島町の条例は、いずれも「ふるさと納税」の受け入れに伴う基金の設置を目的としている。ふるさと納税制度は、平成20年度の税制改正により創設されており、いずれの条例も平成20年から21年にかけて制定されている。条例名に「愛する」、「愛情」、「アイラブ」、「すきさ」、「だいすき」などの言葉が使われている。ふるさとに寄せる多くの人々の愛や思いを、それぞれの市町村への寄付につなげていきたいとの願いが込められているのであろうか。
【夢の条例】
熊本県人吉市 | 平成20年9月24日公布 | 平成20年10月1日施行 |
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長野県茅野市 | 平成24年12月27日公布 | 平成25年1月1日施行 |
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広島県三次市 | 平成18年3月27日公布 | 平成18年4月1日施行 |
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沖縄県読谷村 | 平成元年3月31日公布 | 平成元年3月31日施行 |
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岡山県笠岡市 | 平成15年12月24日公布 | 平成16年4月1日施行 |
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北海道斜里町 | 平成9年3月24日日公布 | 平成9年4月1日施行 |
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福島県福島市 | 平成17年3月30日公布 | 平成17年7月1日施行 |
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兵庫県姫路市 | 平成18年3月27日公布 | 平成18年3月27日施行 |
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秋田県北秋田市 | 平成17年3月22日公布 | 平成17年3月22日施行 |
〇 人吉市条例も、「ふるさと納税」の受け入れに関する条例である。平成20年に制定されている。「人吉市のまちづくりに賛同する市民、団体、企業、人吉市出身者等による寄附金を財源として、これらの人々の意向を反映した政策を実施することにより、様々な人々の協働による個性豊かで夢と活力のあるまちづくりとふるさとづくりに資すること」(1条)を目的としている。基金設置の規定は置かず、寄付金を財源とする事業の区分や指定等の規定を置いている。
〇 茅野市条例は、「子ども・子育て条例」である。「子ども及びその家庭を支援し、及び応援することについて、基本理念を定め、安心して子どもを生み、又は育てることができ、かつ、子どもが健やかに成長できる環境を整備し、もって子どもの未来に夢や希望が持てる社会の実現に資すること」(1条)を目的としており、前文では「茅野市民の宝である子どもたちが、『たくましく、やさしい、夢のある子ども』に育つことを願い、この条例を制定します。」としている。
〇 三次市条例は、「自治基本条例」である。全国の自治基本条例のうち、条例名に「ゆめ」や「夢」という言葉を使用している唯一の条例である(NPO法人公共政策研究所HP(「全国の自治基本条例一覧(更新日:2023年4月1日)」参照)。前文は「私たちは,このまちに住み,歴史を学び,明日を語り,夢をはぐくみ続けてきた。」という文章から始まっている。まちづくりの目標の一つとして、「次世代を担う子どもたちが夢と希望を抱き,健やかに成長できるまちづくり」(6条1項3号)を定めている。
〇 読谷村条例は、基金設置条例である。基金は、いわゆる「ふるさと創生一億円事業」に基づき平成元年に設置されているが、基金名を「ノーベル平和賞を夢みる村民基金」としている。何故、村民はノーベル平和賞を夢みるのか。読谷村は、「先の沖縄戦で米軍の上陸地点となった読谷村は焦土と化し」、また、その後「米軍統治下の困難な状況」の歴史(読谷村自治基本条例前文参照)があり、「日本国憲法の基本理念である恒久平和の実現に努めるとともに、村民が平和で安全な環境のもとに、人間としての基本的な権利と豊かな生活が築ける社会の実現をめざして平和行政を推進する」(読谷村平和行政の基本に関する条例2条)としていることが、その背景にあるものと思われる。
〇 笠岡市条例は、市民参加条例であるが、「協働のまちづくり」を推進する主体として、市民,市民活動団体及び事業者のみならず、「笠岡市のまちづくりに夢を持つ者」を規定している(1条)。この「夢を持つ者」を「笠岡市のまちづくりに継続的かつ積極的な関心を持つ者」(2条3号)と定義づけ、市は「市民等及び夢を持つ者が,まちづくりに積極的に関わることのできる仕組みづくり」等の施策に努める(6条)ものとしている。笠岡市の取組みについては、笠岡市HP「笠岡市の協働のまちづくりについて」を参照されたい。
〇 斜里町条例は、「知床100平方メートル運動」によって取得した土地を「原生の森に再生し、未来永劫にこの森を保全管理するため」(前文)、平成9年に制定された。同運動は、知床国立公園内の開拓跡地を乱開発から守ることを目的として、昭和52年3月「知床で夢を買いませんか」との呼び掛けによりスタートした。平成9年には、ほぼ全ての土地の買い取りができたため、運動の目的を「土地を守る」から「原生の森へと育てる」と進化させ、それを機に条例が制定された。「夢を買う」段階から、「夢を育てる」段階に移行している。同運動については、しれとこ100平方メートル運動の森・トラストHP「100平方メートル運動って?」を参照されたい。
〇 福島市、姫路市及び北秋田市の条例は、いずれも施設の設置条例である。それぞれ、施設の名称を「子どもの夢を育む施設こむこむ館」、「夢のさと」、「ドリームワールド」としている。福島市の施設名の「こむこむ館」は、「コミュニティ、コミュニケーションの『こむ』と、子どもの夢の『子(こ)』と『夢(む)』から命名」した(こむこむHP「よくある質問」)とされる。姫路市の施設は農業公園であるが、条例名にある「夢さき」は、施設がある場所の地名「夢前町」を表している。北秋田市の「ドリームワールド」は、子供の遊園地である。