孤独・孤立を防ぐ条例
(令和7年2月25日更新)
【孤独・孤立対策】
〇 わが国では令和3年2月に孤独・孤立担当大臣が任命されるとともに、内閣官房に孤独・孤立対策担当室が設置された。同室は、「社会的不安に寄り添い、深刻化する社会的な孤独・孤立の問題について総合的な対策を推進するための企画及び立案並びに総合調整に関する事務を処理する」(「孤独・孤立対策担当室の設置に関する規則」)ことを任務としている。
同室は令和3年3月に、孤独・孤立対策に取り組むNPO法人(自殺防止対策、生活困窮者等支援、フードバンク、学校給食・子ども食堂支援、子ども食堂等の取組実践、子供の居場所づくり支援、女性への相談支援等、居住と就労等を交えた自立支援を行う団体)に対する緊急支援策(「孤独・孤立対策に取り組むNPO等の皆様へ~緊急支援策のご案内~」)を取りまとめ、また、5月には「様々なライフステージに応じた「孤独・孤立対策」に関する支援施策」を整理している。
令和3年6月18日に閣議決定された「経済財政運営と改革の基本方針2021」では、孤独・孤立対策の基本的な方向性が盛り込まれるとともに、関連する分野・施策との連携に留意しつつ、孤独・孤立対策の重点計画を年内に取りまとめることとされた。
これを受けて、孤独・孤立対策推進会議において、令和3年12月28日に「孤独・孤立対策の重点計画」が決定され、また、令和4年12月26日に改定された(「孤独・孤立対策の重点計画」)。
〇 「孤独・孤立対策推進法」が、令和5年6月7日に公布され、令和6年4月1日に施行された。。
同法は、「孤独・孤立の状態」を「日常生活若しくは社会生活において孤独を覚えることにより、又は社会から孤立していることにより心身に有害な影響を受けている状態」、「孤独・孤立対策」を「孤独・孤立の状態となることの予防、孤独・孤立の状態にある者への迅速かつ適切な支援その他孤独・孤立の状態から脱却することに資する取組」と定義づけたうえで、孤独・孤立対策について「その基本理念、国等の責務及び施策の基本となる事項を定めるとともに、孤独・孤立対策推進本部を設置すること等により、他の関係法律による施策と相まって、総合的な孤独・孤立対策に関する施策を推進すること」(1条)を目的としている。
基本理念として、①孤独・孤立の状態は人生のあらゆる段階において何人にも生じ得るものであり、社会のあらゆる分野において孤独・孤立対策の推進を図ることが重要であること、②孤独・孤立の状態にある者及びその家族等(当事者等)の立場に立って、当事者等の状況に応じた支援が継続的に行われること、③当事者等に対しては、その意向に沿って当事者等が社会及び他者との関わりを持つことにより孤独・孤立の状態から脱却して日常生活及び社会生活を円滑に営むことができるようになることを目標として、必要な支援が行われることを掲げ(2条)、内閣府に孤独・孤立対策推進本部を置く(20条)としたうえで、同本部は孤独・孤立対策に関する施策の推進を図るための重点計画(孤独・孤立対策重点計画)を作成しなければならない(8条)としている。
地方公共団体の責務として「地方公共団体は、基本理念にのっとり、孤独・孤立対策に関し、国及び他の地方公共団体との連携を図りつつ、その区域内における当事者等の状況に応じた施策を策定し、及び実施する責務を有する。」(4条)と規定し、地方公共団体は、国とともに国民の理解の増進、相談支援、協議の促進、人材の確保等について必要な施策を講ずるよう努める(9条~12条)とするとともに、孤独・孤立対策地域協議会を置くよう努める(15条)としている。
同法の内容等については、内閣官房HP「孤独・孤立対策推進法」を参照されたい。
〇 同法に基づき、孤独・孤立対策推進本部は、令和6年6月11日に「孤独・孤立対策重点計画」を作成した。
同計画は、4つの基本方針を掲げ、それぞれ毎に具体的取組みを示している。すなわち、①「孤独・孤立に至っても支援を求める声を上げやすい社会とする」として、・孤独・孤立の実態把握、・支援情報が網羅されたポータルサイトの構築、タイムリーな情報発信、・声を上げやすい・声をかけやすい環境整備、②「状況に合わせた切れ目ない相談支援につなげる」として、・相談支援体制の整備(電話・SNS相談の24時間対応の推進等)、・人材育成等の支援、③「見守り・交流の場や居場所を確保し、人と人との『つながり』を実感できる地域づくりを行う」として、・居場所の確保、・アウトリーチ型支援体制の構築、・人と人とのつながりを生むための施策の相乗効果を高める分野横断的な連携の促進、・地域における包括的支援体制等の推進、④「孤独・孤立対策に取り組むNPO等の活動をきめ細かく支援し、官・民・NPO等の連携を強化する」として、・孤独・孤立対策に取り組むNPO等の活動へのきめ細かな支援、・NPO等との対話の推進、・連携の基盤となるプラットフォームの形成、・行政における孤独・孤立対策の推進体制の整備を記載している。
孤独・孤立については、「一般に、「孤独」は主観的概念であり、ひとりぼっちと感じる精神的な状態を指し、寂しいことという感情を含めて用いられることがある。他方、「孤立」は客観的概念であり、社会とのつながりや助けのない又は少ない状態を指す。」としつつも、「孤独・孤立に関して当事者等が置かれる具体的な状況は多岐にわたり、孤独・孤立の感じ方・捉え方も人によって多様である。」とし、そのうえで 「多様な形がある孤独・孤立の問題については、孤独・孤立の一律の定 義の下で所与の枠内で取り組むのではなく、孤独・孤立双方を一体として捉え、当事者等の状況等に応じて多様なアプローチや手法により対応することが求められる。」(9頁)としている。
なお、「孤独・孤立の問題を抱えている、あるいは孤独・孤立に至りやすいと現在一定程度認識されている当事者として、例えば、生活困窮状態の人、ひきこもりの状態にある人、メンタルヘルスの問題を抱える人、妊娠・出産期の女性、子育て期の親、ひとり親、不本意な退職や収入減など様々な困難や不安を抱える人、DV等の被害者、こども・若者、学生、不登校の児童生徒、中卒者や高校中退者で就労等をしていない人、独居高齢者、求職者、中高年者、社会的養護出身の人、非行・刑余者、薬物依存等を有する人、一般用医薬品を乱用する人、犯罪被害者、被災者、心身の障害あるいは発達障害等の障害のある人や難聴等の人、難病等の患者、外国人、在外邦人、ケアラー、LGBTQの人等が考えられる。ただし、孤独・孤立は何人にも生じ得ることから、孤独・孤立対策は全ての国民が対象となる。」(8頁)としている。
孤独・孤立対策重点計画の内容等については、内閣府HP「孤独・孤立対策に関する施策の推進を図るための重点計画(孤独・孤立対策重点計画)」を参照されたい。
〇 政府の孤独・孤立対策の取組みについては、内閣府HP「孤独・孤立対策」を参照されたい。
〇 以下、孤独・孤立対策について何らかの形で規定している条例を紹介することとする。
【条例名に孤独又は孤立を付している条例】
〇 条例名に、ずばり孤独又は孤立の文字を付している条例が、ごくわずかながらある。
東京都足立区 | 平成24年12月21日公布 | 平成25年1月1日施行 |
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大阪府河内長野市 | 平成27年12月1日公布 | 平成27年12月1日施行 |
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鳥取県 | 令和4年12月26日公布 | 令和5年1月1日施行 |
の3条例である。
足立区及び河内長野市条例は、一人暮らしや高齢者のみの世帯の高齢者を中心に、地域で見守り活動等を行い、孤立死や孤立状態になることを防ぐことをねらいとして、いずれも平成20年代に制定されている。
一方、鳥取県条例は、ヤングケアラー、老々介護、8050問題をはじめとする課題について、地域の絆を活かして対策を行い、孤独・孤立を防ぎ誰一人取り残さない社会をつくることを目的として、令和4年12月に制定されている。
〇 足立区条例は、「社会的孤立」を「孤立」(1条)と略称したうえで、「孤立」を「親族や近隣との交流を形成できない状態又は生活に必要な支援が受けられない状態にあること」(2条1号)と定義づけている。「孤立」を定義づけている条例としては、本条例と後述の小平市条例のみが確認できる。
また、「見守り活動」を「地域住民が孤立状態になることを防止するために地域住民自らが行う安否確認、声かけその他の活動」(同条2号)と定義づけ、そのうえで、区民が社会的孤立状態になることを防止するとともに、孤立状態にある者をなくすため、地域における見守り活動を促進することを目的(1条)としている。
足立区では、本条例を踏まえ、町会・自治会、民生委員等の協力を得て、介護保険サービスを利用していない70歳以上の単身世帯、75歳以上のみで構成されている世帯に対して実態調査を行うとともに、町会・自治会等の活動の中で、日ごろからの挨拶や声かけをすることによって、一人暮らし、日中独居等の高齢者の不安を軽減し孤立を防ぐ取組み(わがまちの孤立ゼロプロジェクト推進活動)を実施している。
なお、本条例では、区長は、見守り活動及び孤立ゼロプロジェクト推進活動を推進するため、必要と認めるときは、対象となる住民の名簿を、町会・自治会、民生委員、警察署、消防署に提供することができる(8条)としており、この名簿に基づき、町会・自治会、民生委員等は、実態調査や支援活動を実施している。
足立区の取組みについては、同区HP「孤立ゼロプロジェクト推進活動」を参照されたい。
〇 河内長野市条例は、自治会、地域福祉関係団体、行政機関等が連携して、高齢者等に対する日常的に生活の状況を見守る活動を通じて安否の確認を行い、地域社会から孤立して死亡等することを未然に防止することを目的(1条)としている。
対象となる「高齢者等」を「単身世帯の高齢者その他の地域社会から孤立することが予見される者のうち、見守り活動を要するものと認められるもの」(2条)と定義づけている。
市は、自治会、地域福祉関係団体等から安否の確認が必要な高齢者等がある旨の報告を受けた場合は、直ちに適切な措置を講ずる(3条2項)としている。
河内長野市の取組みについては、同市HP「孤立死防止の取組み」を参照されたい。
〇 鳥取県条例は、前文で、「近年、核家族化の進行、都市化の進展、社会の高度化・複雑化等により家庭を取り巻く環境は大きく変化し、家庭内における過重な介護等の負担により学習や就業に支障を来しているヤングケアラーといわれる若者、子育てにおける孤立感等が原因となる産後鬱を発症する者、高齢者が高齢者を介護する老老介護や高齢の親が中高年のひきこもり状態にある子を支える8050問題といわれる身体的又は精神的負担を負う者等が、本人が望まない孤独を感じ、又は孤立していることが、大きな課題として認識されるようになった。」、「これらの課題は、本人や家庭内だけで解決することは容易ではなく、周囲の理解を深め、協力を得ながら、共に支え合い生きる『支え愛』の理念の下、個々の県民生活の実情に即したきめ細やかな対策が必要となっている。」としたうえで、「県、市町村、県民、事業者、関係団体等及び民間支援団体が一体となって、全ての県民が望まない孤独を感じ、又は孤立することを防ぎ、人々の絆を活かし、援助を必要とする者の存在に気づき、必要な支援を行う誰一人取り残さない社会づくりを推進することで、全ての県民がふるさと鳥取で安心して暮らし続けることができるよう、この条例を制定する。」としている。
目的(1条)、定義(2条)、基本理念(3条)、県の責務(4条)、市町村の責務(5条)、県民の役割(6条)、事業者の役割(7条)、関係団体等の役割(8条)、個人情報の活用と保護(9条)、特定援助者等支援に関する施策の推進(10条)、人材の育成等(11条)、普及啓発(11条)、財政上の措置(13条)及び孤独・孤立を防ぐ温もりのある支え愛社会づくり審議会(14条)の全14条から構成されている。
推進する施策の主な内容については、別表(第10条関係)において列挙している。
鳥取県条例の内容等について自治体法務研究2023年夏号CLOSEUP先進・ユニーク条例「鳥取県孤独・孤立を防ぐ温もりのある支え愛社会づくり推進条例」を、鳥取県の孤独・孤立対策の取組については鳥取県HP「孤独・孤立対策」を参照されたい。
【高齢者等に対する見守り活動・支えあい活動を推進する条例】
〇 足立区や河内長野市の条例の同様に、一人暮らしや高齢者のみの世帯の高齢者を中心に、地域で見守り活動や支えあい活動等を行い、これらの人たちが地域から孤立し、孤独な状態に置かれることを防ぐことを目的とする条例は、少なくない。例えば、
東京都中野区 | 平成23年3月18日公布 | 平成23年4月1日施行 |
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北海道由仁町 | 平成27年12月15日公布 | 平成28年1月1日施行 |
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栃木県栃木市 | 平成28年3月25日公布 | 平成28年10月1日施行 |
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青森県黒石市 | 平成29年3月16日公布 | 平成29年4月1日施行 |
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東京都小平市 | 平成29年3月29日公布 | 平成29年4月1日施行 |
などがある。
〇 中野区条例は、「高齢者、障害者、児童その他の日常生活において地域における支援を必要とすると区長が認める者」(2条2項)を対象に、区、関係機関、地域住民、事業者等が連携を図りながら、地域において「支えあい活動」を実施することとしている。
「支えあい運動」とは、日常的に生活の状況を見守る活動、日常生活を支援するための活動、区等が実施する保健医療サービス、福祉サービスその他の支援を必要とする者が必要とするサービスを円滑かつ適切に利用することができるようにするための活動、支援を必要とする者の生命、身体又は財産に危険が生じ、又は生ずるおそれがある場合に、当該支援を必要とする者の生命、身体又は財産を円滑かつ迅速に保護することができるようにするための活動(2条1項)としている。
足立区条例と同様に、高齢者、障害者の氏名等の情報を名簿形式で町会・自治会等に提供することを可能としている(7条 中野区HP「町会・自治会などへの見守り対象者名簿の提供」参照)。
中野区の取組みについては、同区HP「地域での支えあい活動」を参照されたい。
〇 由仁町及び栃木市の条例は、ほぼ中野区条例と同様な内容を有している。
〇 黒石市及び小平市の条例は、高齢者のみを対象にしている。小平市条例は、町会・自治会等に対する高齢者の名簿提供の規定は置いていない。
なお、小平市条例は、「孤立」を「親族、近隣、地域及び行政との交流を形成できない状態又は生活に必要とする支援が受けられない状態にあること」(2条1号)と定義づけている。
【地域の絆を深める条例】
〇 地域において孤独や孤立になる人たちが生じないようにするために、上記のような地域ぐるみの支えあい活動や見守り活動も求められるが、そのためにも、日頃から地域において、住民同士のつきあいや助け合いがあり、また、住民が主体的で自主的に地域活動に取り組んでいることが大切となる。そうした観点から、地域の絆(きずな)を深めることを目的とする条例も、これまで少なからぬ自治体で制定されている。例えば、
横浜市 | 促進する条例 |
平成23年3月25日公布 | 平成23年3月25日施行 |
新潟県 | 平成23年3月29日公布 | 平成23年3月29日施行 |
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神奈川県湯河原町 | 平成24年3月5日公布 | 平成24年3月5日施行 |
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徳島県 | 平成25年3月22日公布 | 平成25年3月22日施行 |
などである。
〇 横浜市条例は、前文で、「我が国には家族や地域社会の絆を何よりも大切にする伝統があり、近隣に居住する市民が互いに助け合い、支え合うことが地域社会の基盤となってきた。しかし、昨今、人と人とのつながりが希薄になる中で、高齢者の孤独死や児童虐待といった事件・事故が年々増加し、家族や地域社会の絆が崩壊したのではないかと疑わざるを得ないような状況である。」としたうえで、「市民が主体的に行う地域活動を促進することにより、もって地域の絆をはぐくみ、地域で支え合う社会の構築を促進するため、この条例を制定する。」とし、条例制定の背景と趣旨を明らかにしている。市民と事業者の役割、市と市職員の責務、施策の基本方針等を定めている。
〇 新潟県条例は、「社会環境が大きく変化する中で社会から孤立しがちな人が増加し、いじめ、虐待、自殺、孤独死等が大きな社会問題となっている現状に鑑み、人と人との心の絆をしっかりと紡ぎ直していくため」(1条)、家庭及び地域社会における絆づくりについて、基本理念、県民の役割及び県の責務を定めている。
〇 湯河原町や徳島県の条例は、横浜市や新潟県の条例とほぼ同様の内容であるが、両条例ともに前文で、東日本大震災の経験と教訓から地域における人と人との絆や顔の見える人間関係の重要性が改めて認識されている旨、明記している。
【シニア地域デビューの条例】
〇 栃木県佐野市は、令和5年3月に、シニア世代の地域デビューを推進するため、
栃木県佐野市 | 令和5年3月24日公布 | 令和5年7月1日施行 |
を制定した。
〇 佐野市条例は、「シニア世代」を「おおむね60歳以上の市民」(2条1号)と定義づけたうえで、「『人生100年時代』を迎え、シニア世代から若者まで、全ての人が元気に活躍し続けられる社会の実現が求められている中、少子高齢化や核家族化の進展、生活様式の多様化などにより人と人とのつながりが希薄となることで、シニア世代の社会的孤立や閉じこもりが懸念されている。シニア世代が生涯にわたって元気に活躍し続けるためには、現役引退後に、地域で自分の能力や経験を生かした就業、趣味やボランティア活動などを通して、社会とのつながりを様々な形で持ち続けていくことが大切である。そこで本市は、シニア世代が地域活動などを始める『地域デビュー』を推進していくことで、シニア世代が生きがいを持って地域で生き生きと生活できる社会を実現するため、この条例を制定する。」(前文)としている。
シニア世代の地域デビューの推進に関して、基本理念(3条)、市の責務(4条)、シニア世代、市民、町会等及び事業者等の役割(5条~8条)、基本計画の策定(9条)、基本的施策の推進(10条)等を規定している。
〇 シニア地域デビューの条例については、佐野市HP「佐野市シニア地域デビュー条例を制定しました」を参照されたい。
【おひとりさま支援の条例】
〇 神奈川県大和市は、令和4年6月に、一人暮らしの高齢者を支援するため、
神奈川県大和市 | 令和4年6月29日公布 | 令和4年6月29日施行 |
を制定した。
〇 大和市条例は、「おひとりさま」を「一人暮らしの市民であって、年齢を重ねたことにより他者や社会との関わりを必要とするもの」(2条1号)と定義づけ、条例制定のねらいを、「一人暮らしであることが、孤立を意味することとならないよう、本人はもちろん、周囲の人や事業者等も共通認識を持って「つながり」を心がけていくことが大切です。」としたうえで、「おひとりさまが孤立することなく、生涯にわたって生き生きと過ごすことができるよう、それぞれの気持ちに寄り添い、おひとりさま、市民及び事業者等と協力し、様々な面から支援するため、本条例を制定します。」(前文)としている。
おひとりさまの支援に関して、基本理念(3条)、市の責務(4条)、おひとりさま、市民及び事業者等の役割(5条~7条)、基本的施策(8条)、財政上の措置(9条)等を規定している。
〇 大和市条例の内容等については自治体法務研究2025年春号条例制定の事例CASESTUDY「大和市おひとりさま支援条例」を、大和市のおひとりさま支援の取組みについては大和市HP「おひとりさま支援」を参照されたい。
【ひきこもり支援の条例】
〇 ひきこもりは、過去は主として子どもの不登校問題としてとらえられてきた面があるが、就職しない・就職できない若者の増加やひきこもりの長期化などにより、現在では、子どものみならず、若年層、中高年層の問題でもあるとされ、8050問題なども指摘されている。令和4年以降、子どものみならず、世代を問わないひきこもりを対象とする単独条例が制定されている。すなわち、
埼玉県 | 埼玉県ひきこもり支援に関する条例 | 令和4年3月29日公布 | 令和4年3月29日施行 |
神奈川県大和市 | 大和市こもりびと支援条例 | 令和4年9月27日公布 | 令和4年9月27日施行 |
東京都江戸川区 | ひきこもりの状態にある人やその家族等へのサポート推進条例 | 令和5年11月6日公布 | 令和5年11月6日施行 |
である。
〇 埼玉県条例は、「ひきこもり状態」を「自宅又は自室に長期間閉じこもり、他人又は社会とのかかわりを回避している状態」(2条2号)、「ひきこもり支援」を「ひきこもり状態にある者及びその家族に対する支援並びに民間支援団体等の活動に対する支援」(2条1号)と定義づけたうえで、「ひきこもり支援に関し、基本理念を定め、県の責務及び民間支援団体等の役割を明らかにするとともに、民間支援団体等による支援を推進するために必要な事項を定めることにより、安心して支援を受けられる社会を実現すること」(1条)を目的としている。
〇 大和市条例は、「こもりびと」を「様々な要因の結果として社会的参加(就学、就労、家庭外での交遊等をいう。以下同じ。)を回避し、市内においておおむね6月以上にわたり家庭等にとどまり続けている状態の者」(2条1項)と定義づけたうえで、「こもりびとの支援に関する基本理念及び基本的施策を定めることにより、こもりびとの支援に関する施策の総合的な推進を図るとともに、市民の理解を促し、もってこもりびと及びその家族等が、望まない孤独や孤立を伴うことなく安心して生活し、希望する時に必要な支援につながることのできる地域社会の実現に寄与すること」(1条)を目的としている。「大和市では、ひきこもりの状態にある人を「こもりびと」と称し、令和元年から健康福祉総務課内にこもりびと専門の相談窓口を設置してきました。」(大和市HP「こもりびと支援窓口 ~こもりびとコーディネーターが相談支援に応じます~」)としている。
〇 江戸川区条例は、「ひきこもりの状態にある人」を「 江戸川区内(以下「区内」という。)に居住する者であって、様々な事情によって社会的参加(就学、就労、家庭外での交遊等)を避け、おおむね家庭にとどまり続けている状態又はこれに近い状態にあるもの」(2条1号)と定義づけたうえで、「ひきこもりの状態にある人及び家族等(以下「ひきこもりの状態にある人等」という。)を理解し、サポートするための基本理念を定め、江戸川区(以下「区」という。)の責務並びに区民等、事業者及び支援団体の役割を明らかにすることにより、ひきこもりの状態にある人等に対する理解の促進及びサポートを推進するとともに、ひきこもりの状態にある人等を含めた区に住む全ての者が自分自身を大切な存在と認め、互いに尊重し合いながら、ともに自分らしく暮らせるまちを実現すること」(1条)を目的としている。
〇 ひきこもり支援の条例については、「ひきこもり支援に関する条例」を参照されたい。
【子どもと子育て家庭の孤独・孤立を防ぐ条例】
〇 社会環境が変化し、核家族化の進行、共稼ぎ家庭やひとり親家庭の増加、地域のつながりの希薄化等の中で、子どものいじめ、虐待、不登校、ひきこもり、貧困等が深刻な問題となっている。
子どもたちが、家庭、学校、社会等の中で孤独や孤立の状況に置かれることがないよう、子どもが健やかに成長できる環境、そして、家庭として安心して子育てができる環境を整えることが、自治体にとって強く求められている。
そうした観点から、子ども、子育て、虐待防止、いじめ防止等に関する条例が、多くの自治体で制定されている。これらの条例については、「子どもに関する条例」、「子どもの権利に関する条例」、「児童虐待に関する条例」、「いじめ防止に関する条例」等を参照されたい。
本稿では、これらの条例のうち、子どもの居場所、子どもの貧困、ひきこもりに関する規定を置いている条例を紹介する。
(子どもの居場所)
〇 孤独・孤立を感じる子どもたちに対して、家庭や学校だけで彼らの抱える状況に対応することは必ずしもが容易ではない。そもそも問題の原因が、家庭や学校にあることも少なくない。そのため、子どもたちが、家庭や学校以外の場で、信頼できる友人や大人と安心して過ごすことができる「居場所」の確保が大切であるとされる。そうした子どもの居場所の確保について規定を置く条例は少なくない。例えば、
川崎市 | 平成12年12月21日公布 | 平成13年4月1日施行 |
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愛知県東郷町 | 平成26年4月30日公布 | 平成26年7月1日施行 |
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宮城県 | 平成27年10月13日公布 | 平成27年10月13日施行 |
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福島県福島市 | 令和3年6月23日公布 | 令和3年6月23日施行 |
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高知県 | 平成29年3月24日公布 | 平成29年3月24日施行 |
などである。
〇 川崎市条例は、「居場所」を「ありのままの自分でいること、休息して自分を取り戻すこと、自由に遊び、若しくは活動すること又は安心して人間関係をつくり合うことができる場所」と定義づけたうえで、子どもには居場所が大切であるとし、「市は、居場所についての考え方の普及並びに居場所の確保及びその存続に努める」(27条1項)及び「市は、子どもに対する居場所の提供等の自主的な活動を行う市民及び関係団体との連携を図り、その支援に努める」(同条2項)と規定し、市に対して努力義務を課している。
また、子どもの居場所づくりについて、東郷町条例は、「町は、子どもが気軽に集い、過ごすことのできる居場所づくりに努めます。」(18条1項)及び「町は、子どもが仲間や地域住民と一緒に豊かな体験をすることのできる場や機会の確保に努めます。」(同条2項)と規定し、宮城県条例は、「県は、子育て家庭の多様な需要に対応するとともに、子どもの居場所づくりを促進するため、市町村、個人及び団体が行う保育サービスの提供に対する支援、放課後における児童の健全育成に関する活動等に対する支援、児童及び生徒への学習支援活動に対する支援その他の必要な施策を推進するものとします。」(11条2項)と規定している。
〇 一方、福島市条例は、子どもの居場所の確保のみならず、保護者の居場所の確保についても規定している。すなわち、子どもの居場所については「市は、子どもが安心して過ごし、遊び、学ぶための居場所の確保等に必要な施策を推進するものとします。」(12条)、保護者の居場所については「市は、地域において子育てを支援する拠点及び保護者が交流することができる場の確保等に必要な施策を推進するものとします。」(14条)と規定している。
〇 子どもの居場所の一つとして、いわゆる子ども食堂がある。高知県条例は、子ども食堂支援のため基金を設置することとしている。基金の名称は「高知県子ども食堂支援基金」とし、基金の設置目的は「子どもたちが家庭や学校以外で安心して過ごせる居場所となり、親や子どもたちが地域とつながる場としての機能を有する子ども食堂の活動を県内全域に広めるとともに、運営の継続を支援していくため」(1条)としている。
(子どもの貧困)
〇 家庭における生活の困窮により、満足な食事がとれず、また、十分な教育の機会が得られない等の状況に置かれ、社会的に孤立する子どもたちがいる。こうした子どもの貧困問題に取り組み、その解消を図ることを規定する条例も少なくない。例えば、
香川県高松市 | 平成30年3月28日改正施行 |
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東京都西東京市 | 平成30年9月19日公布 | 平成30年10月1日施行 |
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神奈川県 | 令和2年4月1日改正施行 |
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千葉県四街道市 | 令和2年3月31日公布 | 令和2年5月5日施行 |
などである。
〇 子どもの貧困対策について、高松市条例は「市は、子どもの現在及び将来がその生まれ育った環境によって左右されることのないよう、全ての子どもが心身ともに健やかに育成され、及びその教育の機会均等が保障され、子ども一人一人が夢や希望を持つことができるようにするため、子どもの貧困の解消に向けて、子どもの貧困対策の推進に取り組むものとする。」(14条)と規定し、西東京市条例は「市は、育ち学ぶ施設の関係者、市民、事業者等と連携・協働して、子どもが安心して過ごし、学び、健やかに育つために、子どもの貧困問題に総合的に取り組むよう努めなければなりません。」(10条)と規定している。
〇 また、神奈川県条例は「県は、子どもの現在及び将来がその生まれ育った環境によって左右されることのないよう、貧困の状況にある子ども等に対する教育の支援、生活の安定に資するための支援その他必要な支援及び社会全体で子どもの貧困対策に取り組むための基盤づくりを行うものとする。」(13条)と規定し、四街道市条例は「市は、生まれ育った環境に左右されず、すべての子どもが夢や希望を持って成長できるよう、子どもの貧困対策に取り組みます。」(10条)と規定している。
(ひきこもり)
〇 子どものひきこもりへの対応について規定する条例としては、例えば、
愛知県豊田市 | 平成19年10月9日公布 | 平成19年10月9日施行 |
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兵庫県明石市 | 平成28年12月26日公布 | 平成29年4月1日施行 |
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神奈川県鎌倉市 | 令和2年3月13日公布 | 令和2年3月13日施行 |
などがある。
〇 豊田市条例は、特別なニーズのある子ども・家庭への支援として「市、育ち学ぶ施設、市民及び事業者は、外国籍の子ども、障害のある子ども、ひとり親家庭の子ども、経済的に困難な家庭の子ども、不登校の子ども、社会的ひきこもりの子ども、虐待を受けた子ども、心理的外傷を受けた子ども、非行を犯した子どもなどで、特別なニーズがあると考えられる子どもとその家庭に気を配り、適切な支援をしなければなりません。」(14条)と規定している。
〇 また、明石市及び鎌倉市の条例は、不登校及びひきこもりに関する取組として「市は、保護者、市民等、学校等関係者及び事業者と連携し、不登校及びひきこもりに関する問題の解決のために必要な施策を講ずるものとする。」(明石市条例14条)、「市は、保護者、地域住民等、育ち学ぶ施設の関係者及び事業者と連携し、不登校及びひきこもりに関する課題の解決のために必要な施策を講ずるよう努めるものとする。」(鎌倉市条例15条)と規定している。
【様々な人たち、そして、すべての人たちの孤独・孤立を防ぐ条例】
〇 高齢者や子どもだけでなく、障害者、ケアラー、認知症の人たち、新型コロナウイルス感染症患者、犯罪被害者、罪に問われた者など様々な人たち、さらには、すべての人たちの孤独・孤立を防ぐことに関連して、多くの条例が制定されている。例えば、
滋賀県 | 平成31年3月22日公布 | 平成31年4月1日施行 |
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埼玉県 | 令和2年3月31日公布 | 令和2年3月31日施行 |
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東京都世田谷区 | 令和2年9月30日公布 | 令和2年10月1日施行 |
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栃木県那須塩原市 | 人権の擁護に関する条例 |
令和2年9月30日公布 | 令和2年9月30日施行 |
神奈川県 | 平成21年3月27日公布 | 平成21年4月1日施行 |
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奈良県 | 令和2年3月30日公布 | 令和2年4月1日施行 |
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東京都国立市 | まちづくり基本条例 |
平成30年12月27日公布 | 平成31年4月1日施行 |
東京都 | ソーシャルファームの創設の促進に関する条例 |
令和元年12月25日公布 | 令和元年12月25日施行 |
広島県東広島市 | 推進に関する条例 |
令和3年3月2日公布 | 令和3年3月2日施行 |
福岡県篠栗町 | 令和3年6月18日公布 | 令和3年6月18日施行 |
などである。
〇 滋賀県条例は、障害者に関して、障害を理由とする差別の解消の推進、障害者の自立および社会参加に向けた取組みについて、基本理念を定め、県・県民・事業者の責務を明らかにしたうえで、基本的な施策を規定している。
前文で、「依然として人権侵害や生活上の制約を受けている障害者が存在する。さらに、人と人との絆が薄れつつある社会にあって、社会保障の狭間で困難な暮らしを余儀なくされ、また、周囲の無関心や無理解により孤立する人々が存在しており、共生社会の実現は道半ばにある。」と記述している。また、基本理念として「全ての県民が障害の有無にかかわらず基本的人権を享有する個人としてその尊厳が重んぜられなければならないこと」等(3条)を規定している。
同種の条例については「障害者差別解消に関する条例」を参照されたい。
〇 埼玉県条例は、ケアラー(家族など身近な人に対して、無償で介護、看護、日常生活上の世話をする者)に関して、ケアラー支援の基本理念を定め、県の責務、県民・事業者・関係機関の役割を明らかにしたうえで、基本的な施策を規定している。
基本理念の一つとして「ケアラーの支援は、県、県民、市町村、事業者、関係機関、民間支援団体等の多様な主体が相互に連携を図りながら、ケアラーが孤立することのないよう社会全体で支えるように行われなければならない。」(3条2項)と規定し、県民の役割として「県民は、ケアラーが置かれている状況及びケアラーの支援の必要性についての理解を深め、ケアラーが孤立することのないように十分配慮するとともに、県及び市町村が実施するケアラーの支援に関する施策に協力するよう努めるものとする。」(5条)と規定している。
同種の条例については「ケアラー支援に関する条例」を参照されたい。
〇 世田谷区条例は、認知症の人たちに関して、認知症施策(認知症とともに生きる人の権利が尊重され、本人を含む全ての区民が認知症とともに生きる希望を持って暮らすことができるように推進する認知症に係る施策)について、基本理念を定め、区の責務、区民の参加、地域団体・関係機関・事業者の役割を明らかにしたうえで、基本的な施策を規定している。
基本理念として「本人一人ひとりが自分らしく生きる希望を持ち、どの場所で暮らしていてもその意思と権利が尊重され、本人が自らの力を発揮しながら、安心して暮らし続けることができる地域を作る。」等(3条)と規定し、認知症への備え等の推進として「区は、区民が認知症になってからも孤立せず、社会参加並びに健康の保持及び増進の機会及び権利が守られるよう、必要な施策を実施するものとする。」(10条)と規定している。
同種の条例については「認知症施策に関する条例」を参照されたい。
〇 那須塩原市条例は、新型コロナウイルス感染症患者について、その親族や医療従事者等も含めて、人権を擁護するため、市・市民・事業者の責務等を明らかにしている。
基本理念で「何人も、感染症の患者等の人権を最大限に尊重し、感染症にかかっていること、かかっているおそれがあること又はかかっていたことを理由として、不当な差別、偏見、誹謗中傷などの人権の侵害をしてはならない。」(3条)と規定し、市民の責務として「市民は、感染症に関する正しい知識を持つとともに、感染症の患者等の人権の侵害をすることのないよう十分に配慮し、感染症の患者等を地域社会で孤立させないよう努めなくてはならない」(5条)と規定している。
同種の条例については「新型コロナウイルス感染症に関する条例」を参照されたい。
〇 神奈川県条例は、犯罪被害者に関して、犯罪被害者等支援について、基本理念を定め、県・県民・事業者・民間支援団体の責務を明らかにし、基本的な施策を規定している。
基本理念として「すべての犯罪被害者等の個人としての尊厳が重んぜられ、その尊厳にふさわしい処遇を保障される権利が尊重され、及び犯罪被害者等が犯罪等により壊された日常生活を早期に回復できるよう犯罪被害者等の立場に立った適切かつきめ細かな支援が途切れることなく提供されること」等(3条)を規定し、県民の責務として「県民は、基本理念にのっとり、犯罪被害者等の置かれている状況及び犯罪被害者等支援の必要性についての理解を深め、二次被害が生じることのないよう十分配慮するとともに、犯罪被害者等を地域社会で孤立させないよう努めるものとする。」(5条)と規定している。
同種の条例については「犯罪被害者支援に関する条例」を参照されたい。
〇 奈良県は、罪に問われた者に関して、その更生支援について、基本理念を定め、県の責務、関係団体・県民等の役割を明らかにし、基本的な施策を規定している。
前文で、「罪に問われた者等の中には、安定した仕事や住居がない者、薬物やアルコールなどの依存のある者、高齢で身寄りがない者など地域社会で生活する上での様々な課題を抱えている者が多く存在する。・・・これらの者の中には、地域社会で孤立し、個々に抱えた様々な課題を解決できないまま、再び罪に問われる者も少なくない。」記述している。また、基本理念として「更生支援の推進は、罪に問われた者等の多くが安定した職業に就くこと及び住居を確保することができないこと等のために円滑な社会復帰をすることが困難な状況にあることを踏まえ、罪に問われた者等が個々に抱える事情に応じ、必要な支援等を総合的に行うことにより、罪に問われた者等が地域社会において孤立することなく、県民等の理解及び協力を得て、地域社会をともに構成する一員となることができるよう行わなければならない。」等(3条)と規定している。
同種の条例については「更生支援に関する条例」を参照されたい。
〇 国立市条例は、「全ての人を社会的孤立や排除から守り、社会の一員として包み支え合うこと」(前文)という「ソーシャル・インクルージョン」の理念の下、人権を尊重し多様性を認め合う平和なまちを実現すること(1条)を目的としている。
基本原則として「全ての人は、人種、皮膚の色、民族、国籍、信条、性別、性的指向、性自認、しょうがい、疾病、職業、年齢、被差別部落出身その他経歴等にかかわらず、一人一人がかけがえのない存在であると認められ、個人として尊重されなければならない。」(2条)ことを定めたうえで、「全ての市民は、社会的孤立や排除から援護され、地域社会の一員として、互いに認め支え合うとともに、自分らしく生きる権利を有する。」(6条)と規定し、社会的孤立から守られることをすべての市民の権利として明記している。
〇 東京都条例も、国立市条例と同様に「ソーシャル・インクルージョン」の考え方に立って制定されているが、特に、「この考え方は、就労を希望しながらも様々な理由から就労に困難を抱え、職に就けていない方や就労の継続が困難な方を支援していく上で重要である。」として、「就労を希望する全ての都民がその個性と能力に応じて働くことができるよう応援し、誰一人取り残されることなく誇りと自信を持って輝く社会の実現を目指し、この条例を制定する。」(前文)としている。
同様の考え方に立った条例として、静岡県富士市の「富士市ユニバーサル就労の推進に関する条例」や大阪府の「大阪府障害者等の雇用の促進等と就労の支援に関する条例」がある。これらの条例については、「就労困難者への就労支援に関する条例」を参照されたい。
〇 東広島市条例は、「地域共生社会」を「市民がそれぞれの人格及び個性を尊重し合いながら、地域社会に主体的に参画することにより、相互に支え合い、全ての人々が生きがいを持ち、かつ、安心して日常生活を営むことができる社会」(2条)とし定義づけたうえで、地域共生社会の形成を図るための施策の推進を図ることを目的としている。基本理念の一つとして、「全ての人々が地域社会から孤立することを防止すること。」(3条4号)を掲げている。
前文では、「地域社会においては人間関係が希薄化しつつあり、生活、健康、育児その他日常生活上の不安、課題等を抱えている人々が、誰にも相談することができずに孤立を深めていく状況も生じてきている。」としたうえで、「我々は、このような状況を見逃すことはできない。地域社会における人と人とのつながりの重要性を改めて確認し、お互いを尊重し、気遣い、見守り合うことで、生活上の不安、課題等を抱えている住民を地域で支えるとともに、地域社会の持続的な発展のため、福祉、保健医療、労働、教育、住宅、地域再生その他の様々な分野に関わる者が協働する社会を、このまちで構築していくために、自ら行動を起こすことが強く求められている。」としている。
東広島市の取組み等については、東広島市HP「地域共生社会の実現を目指して」を参照されたい。
〇 篠栗町条例は、「町民の命を守るささぐりづくり」を「人と人との繋がりが薄れつつある現在において、様々な要因を抱え、孤立しがちな生活になっている人や世帯を孤立させることなく、必要な支援等を通して全ての町民がかけがえのない個人として尊重される篠栗町の社会づくり」(2条1号)と定義づけたうえで、「みんなが主体となって協働し、もって『町民の命を守るささぐりづくり』の実現を目指す」(1条)ことを目的としている。
前文では、「近年、全国的に、生活困窮、育児や介護疲れ、いじめなど様々な悩みを抱えた人々が、現在の希薄になった人間関係の中で孤立し、救いの声を上げることができないまま、そしてその声を周囲の人たちが拾うことができないまま、尊い命が失われている現状があります。そうした現象は、都市化や生活様式の変化、核家族化などにより、地域での住民同士の関係性や家族内での繋がりに変化が起きていることが要因の一つになっているといえます。そしてその波は、私たちのまち篠栗町にも広がりつつあります。」としたうえで、「そうした今だからこそ、私たちは、昔ながらの篠栗町の良さを思い出し、全世代における孤立化を防止するとともに、孤立する人を町民みんなで支え合い、助け合い、人と人との繋がりを大切にして、共に生きる昔ながらの地域づくりを再構築する必要に迫られています。」としている。
篠栗町の孤独・孤立対策については篠栗町HP「孤独・孤立対策」を、本条例の制定経緯、内容等については自治体法務研究2021年冬号CLOSEUP先進・ユニーク条例「篠栗町「町民の命を守るささぐりづくり」条例」を参照されたい。
【自殺対策を推進する条例】
〇 最後に、自殺対策の推進について規定する条例を紹介する。多くの自治体で、自殺対策に関する条例を制定しているが、ここでは、一例として、次の条例を紹介する。
京都府 | 平成27年3月20日公布 | 平成27年4月1日施行 |
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北海道登別市 | 平成30年3月28日公布 | 平成30年4月1日施行 |
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福島県郡山市 | 平成29年6月30日公布 | 平成29年9月10日施行 |
〇 いずれの条例も、自殺対策について、基本理念を定め、自治体、住民等の責務を明らかにし、基本的な施策を規定している。
〇 このうち、京都府条例は「府、国、市町村及び府民等が一体となって自殺対策を推進して、自殺の原因となり得る問題に起因する精神的な苦痛を受け、又は当該問題に起因する社会生活上の困難を有する者が孤立することを防止し、もって全ての府民が地域社会の一員として共に生き、共に支え合う社会の実現に寄与すること」(1条)を目的とし、登別市条例は「登別市における自殺対策に関する基本理念及び自殺対策を推進するための基本的事項を定め、市等の責務を明らかにすることにより、すべての市民が社会から孤立することのない、生きることを支えあう社会的包摂の実現に寄与すること」を目的(1条)としている。
〇 また、郡山市条例は、前文で、郡山市は「日々の生活に不安を感じている多くの市民がいることに加え、東日本大震災及び東京電力福島第一原子力発電所事故による原子力災害の影響等により避難している方の孤立等、自殺につながる可能性がある様々な問題を抱えており、自殺対策は重要な課題の一つとなっている。」と記述し、特に東日本大震災及び福島原発事故による避難者の孤立について言及している。