ですます・ふりがな・英語条例

(令和6年1月18日更新)

【はじめに】

〇 「条例の動き」で全国自治体の様々な条例を紹介しているが、「である」調ではなく、「ですます調」の条例を目にすることは少なくない。また、一部の条例では、ふりがなを付ける必要がないとされる常用漢字にふりがなが数多く付けられているものも見られる。さらに、ごく一部であるが、英語で表記されている条例もある。本稿では、こうした「ですます調条例」、「ふりがな多用条例」、「英語表記条例」を、取り上げる。

〇 法率や条例の表記の仕方や用語の使い方については、一定のルールがある。

 文体については、「口語の『である体』を用いる」(石毛正純「法制執務詳解 新版Ⅲ」(ぎょうせい 令和2年3月 以下「石毛詳解」という。)552頁)、ふりがなは、常用漢字表にない漢字で「他に言い換える言葉がなく、しかも仮名で表記すると理解することが困難であると認められるようなもの」には付ける(石毛詳解554頁)、外国文字は「符号ないし記号として用いられ場合」、「各単語の頭文字を組み合わせた略語が一つの意味のある言葉として日常用語あるいは専門用語等として用いられる場合」等に例外的に用いられる(石毛詳解567頁)とされている。

〇 「ですます調条例」、「ふりがな多用条例」、「英語表記条例」は、こうした法制執務のルールとは異なる取扱いがなされていることとなる。

 石毛詳解のほか、法制執務研究会編「ワークショップ法制執務 第2版」(ぎょうせい 平成30年1月)、地方自治法規実務研究会「条例・規則作成の手引(改訂版)」(第一法規 令和2年11月)、礒崎陽輔「分かりやすい法律・条例の書き方 改訂版(増補2)」(ぎょうせい 令和3年7月)等の法制執務関連書では、こうした「ですます調条例」等については全く触れられていない。

〇 少し古くなるが、出石稔「徹底比較!自治立法の動向を探る 第3回 やさしい条例づくり①―ですます調条例」(ガバナンス 2006年7月号)は、平成18年までに制定された「ですます調条例」を調べ、分析・解説している。

 この出石解説は、

1 「ですます調条例」は、都道府県や指定都市、中核市、特例市等の大規模市では、制定事例は極めて少ない。

2 一般市町村で制定事例はあるが、自治基本条例、市民参加条例、環境基本条例、男女共同参画条例等の市民に密接にかかわる理念条例に多く、権利義務事項にかかわる条例には少ない。

3 この背景として、市民の親しみやすさ、読みやすさの観点から自治基本条例、市民参加条例等はふさわしいと考えられ、要件や基準等<の明確化が必須であることから権利義務事項にかかわる条例にまでは踏み込めていないと考えられる。

4 「ですます調条例」は、①前文のみ「ですます調」の条例、②「ですます調」であるが、従前の法令用語のルールを踏襲している条例、③「ですます調」であり、できるかぎりの口語調の表現を取り入れている条例、に分けることができる(それぞれのタイプ毎に具体例を紹介)。

5 法令とは異なる親しみやすい条例を目指すこと自体は、住民生活に密接にかかわる自治体ならではの試みであり、評価に値する。

などとしている。

〇 また、藤島光雄「第2章 立法法務の基礎」(自治体法務検定公式テキスト 政策法務編2019年度検定対応(第一法規 平成31年2月)94頁)は、

1 最近では、条文の用語をもっと平易なものにし、なじみやすいものにするため、「ですます」を使用する条例も見られる。

2 例えば、「世田谷区子ども条例」については、平仮名を多用し、難しい言葉にはルビが振られているが、これは、こどもの観点に立った視点と市民に親しまれる条例にとの考えによるものである。

3 しかし、法令文は何よりも正確であり一義的で、その解釈に疑問の余地があってはならず、厳格な使い方がされる法令用語がある。

などとしている。

〇 本稿では、以下、「ですます調条例」、「ふりがな多用条例」、「英語表記条例」の具体例を、備忘録的な意味も兼ねて、紹介する。

 

【ですます調条例】

(自治基本条例、議会基本条例、市民参加条例、環境基本条例、男女共同参画条例)

〇 出石解説によると、平成18年時点で、自治基本条例、市民参加条例、環境基本条例、男女共同参画条例等の市民に密接にかかわる理念条例において、制定事例が見られるとしている。

 令和3年時点で、平成30年以降における「ですます調条例」の制定状況を調べてみると、自治基本条例、市民参加条例、環境基本条例、男女共同参画条例等は、制定件数全体が平成10年代、平成20年に比べるとかなり減少しているが、「ですます調条例」として制定する自治体は少なくない。

〇 議会基本条例が平成18年以降制定されているが、自治基本条例と同様「ですます調」で制定される条例は少なくなく、平成30年以降も「ですます調条例」として制定する自治体は少なくない。

〇 他方、自治基本条例、議会基本条例、市民参加条例、環境基本条例及び男女共同参画条例において、「ですます調条例」として制定される割合が高いかと言えば、必ずしもそうではない。前文だけ「ですます調」にとどめるものも少なくない。

 出石解説において、「ですます調条例」の代表例の一つとして、岩手県紫波町の「紫波町循環型まちづくり条例」(平成13年)をあげているが、同じ紫波町の「紫波町市民参加条例」(平成19年)は前文のみ「ですます調」である。その理由とし、「本条例は、行政において手続を定める手続条例にあたります。通常、手続条例は規定する内容を正確にするため、『である調』で制定しますが、この条例は、市民と町が市民参加を行うことにより、協働のまちづくりを推進することを目的に制定しますので、前文にはその決意を表しました。」(紫波町資料「紫波町市民参加条例案に係る意見公募結果」)とし、前文は「ですます調」とするものの、条例本文は「である調」としたとしている。なお、「紫波町議会基本条例」(平成26年)も前文のみ「ですます調」である。

 また、同じく出石解説で「ですます調条例」の代表例の一つとして「多治見市環境基本条例」(平成10年制定)があげられた岐阜県多治見市では、「多治見市市政基本条例」(平成18年)は全体が「ですます調」であるが、「多治見市男女共同参画推進条例」(平成17年)、「多治見市市民参加条例」(平成19年)及び「多治見市議会基本条例」(平成22年)は条例本文を「である調条例」としている。

〇 平成30年以降制定された自治基本条例、議会基本条例、市民参加条例、環境基本条例及び男女共同参画条例のうち、「ですます調条例」として制定された条例としては、例えば、以下のような条例がある。

(自治基本条例)

・すべて「ですます調」

(栃木県市貝町)サシバの里いちかい基本条例(平成30年)
(埼玉県)東秩父村自治基本条例(平成31年)
(愛知県)犬山市協働のまちづくり基本条例(平成元年)
(岐阜県)海津市自治基本条例(理念条例)(令和元年)

・前文のみ「ですます調」

(長崎県)壱岐市自治基本条例(平成30年)

(議会基本条例)

・すべて「ですます調」

(群馬県)邑楽町議会基本条例(令和2年) (北海道)東川町議会基本条例(令和2年)
(東京都)瑞穂町議会基本条例(令和2年) (北海道)下川町議会基本条例(令和3年)

・前文のみ「ですます調」

(岩手県)九戸村議会基本条例(令和3年)

(市民参加条例)

・すべて「ですます調」

(茨城県)守谷市協働のまちづくり推進条例(平成30年)
(北海道)訓子府町まちづくり町民参加条例(平成31年)
(熊本県)八代市協働のまちづくり推進条例(平成31年)
(千葉市)千葉市市民自治によるまちづくり条例(令和元年)

・前文のみ「ですます調」

(埼玉県)狭山市協働によるまちづくり条例(平成30年)
(福岡県)飯塚市協働のまちづくり推進条例(令和2年)
(滋賀県)長浜市市民協働のまちづくり推進条例(令和2年)
(島根県)浜田市協働のまちづくり推進条例(令和2年)

(男女共同参画条例)

・すべて「ですます調」

(滋賀県)甲賀市男女共同参画を推進する条例(平成30年)
(兵庫県)丹波市男女共同参画推進条例(平成31年)
(三重県)東員町男女共同参画推進条例(平成31年)

・前文のみ「ですます調」

(青森県)青森市男女共同参画推進条例(平成30年)
(岐阜県)郡上市男女共同参画推進条例(平成30年)
(岩手県)北上市男女共同参画と多様性社会を推進する条例(平成31年)
(愛知県)刈谷市男女共同参画推進条例(令和元年)

(環境基本条例)

・前文のみ「ですます調」

(長野県)上松町環境基本条例(平成30年) (富山県)南砺市環境未来づくり基本条例(令和2年)
(長野県)軽井沢町環境基本条例(令和3年)

 

 (子ども条例)

〇 平成10年代から子ども条例が制定されるようになったが、子ども条例は、子どもを対象としているため、子どもでも理解できるように、また、市民にも親しみが持てるようにするため、「ですます調」で制定されるものが多い。

〇 例えば、「子ども条例」のうち「子どもの権利に関する条例」の「子どもの権利に関する総合条例」について見ると、以下の通り、平成12年から令和5年までに制定された64条例のうち、すべて「ですます調」が44条例、前文のみ「ですます調」が12条例、「である調」が8条例であり、その多くがすべて「ですます調」であることがわかる。なお、以下の市町村の具体的な条例については、「子どもの権利に関する条例」を参照されたい。

・すべて「ですます調」

多治見市 目黒区 芽室町 魚津市 岐阜市 豊島区 志免町 白山市 豊田市 札幌市 筑前町 岩倉市
小金井市 遠野市 石巻市 日進市 幕別町 幸田町 内灘町 奥州市 北広島市 知立市 泉南市
世田谷区 青森市 士別市 松本市 市貝町 知多市 東郷町 相模原市 東員町 西東京市 那珂川市
江戸川区 笠松町 新潟市 田川市 中野区 山梨県 熊取町 富士市 南砺市 武蔵野市

・前文のみ「ですます調」

奈井江町 名張市 名古屋市 上越市 筑紫野市 宗像市 日光市 奈良市 甲府市 尼崎市 北本市
瀬戸市

・「である調」

川崎市 射水町 那須塩原市 長野県 津島市 川崎町 亀岡市 横須賀市

〇 ただし、令和になってから令和5年までに制定された「子ども条例」を見ると、以下の通り、50条例のうち、すべて「ですます調」が21条例であるのに対して、前文のみ「ですます調」が18条例、「である調」が11条例であるが、このうち、「子どもの権利に関する総合条例」(〇を付したもの)以外の子ども条例は、すべて「ですます調」が10条例であるのに対して、前文のみ「ですます調」が15条例、「である調」が10条例であり、「子どもの権利に関する総合条例」以外の子ども条例は、すべて「ですます調」は比較的少ないと言える。なお、以下の市町村の具体的な条例については、「子ども条例」を参照されたい。

・すべて「ですます調」

苫前町 四街道市 〇那珂川市 真岡市 福島市 〇江戸川区 東温市 〇笠松町 多摩市 〇新潟市
南相馬市 田川市 東松島市 〇中野区 〇山梨県 〇熊取町 〇富士市 登米市 〇南砺市 鳴門市
〇武蔵野市

・前文のみ「ですます調」

西脇市 壮瞥町 高根沢町 鎌倉市 常陸太田市 宇美町 〇甲府市 丸亀市 西尾市 和泉市 枚方市
ふじみ野市 〇北本市 〇瀬戸市 邑南町 鹿児島市 佐久市 田原本町

・「である調」

東川町 上富田町 宮古市 東京都 広野町 長野県 佐渡市 〇横須賀市 奈良県 荒川区 川口市

 因みに、「宗像市子ども基本条例」(平成24年制定)は、前文のみ「ですます調」とし、条例本文は「である調」としているが、その理由として、「用語の口語調への置換えは、時として条例運用上の課題を生み出すことがある(担当者によって解釈・運用が変わる可能性がある)。従来型の用語法は、誰が読んでも同じ解釈ができ適正な運用が確保できるよう、長年にわたり編み出された優れた法制技術である。」、「理念条例であれば『です・ます調』を容認する検討もできるが、子ども基本条例案を見ると、子どもの権利や市民の行動規範を示しており、また、救済機関という公権力の行使に係る制度の導入も検討されていることから、『である体』が望ましい。」等をあげている(第4回宗像市次世代育成支援対策審議会資料「子ども基本条例の文体について」)。子ども条例であるからと言って、安易に条例本文を「ですます調」とすべきではないとしている。

 

(都道府県条例・指定都市条例)

〇 出石解説では、平成18年時点で「ですます調条例」は、都道府県条例では「三重県生活創造圏ビジョン推進条例」(平成12年制定 平成19年廃止)のみであり、指定都市条例では「川崎市自治基本条例」(平成16年制定)が「目を引く」としている。

 しかし、令和5年時点では、子ども条例を中心に、都道府県や指定都市でも「ですます調条例」を制定する事例が出ている。但し、数としては多くない。

 前文・条例本文ともに「ですます調」である子ども条例としては、都道府県条例では「安心して子どもを生み育てることができる岐阜県づくり条例」(平成19年)、「長崎県子育て条例」(平成20年)、「みやぎ子ども・子育て県民条例」(平成27年)、「やまなし子ども・子育て支援条例」(平成29年)、 「やまなし子ども条例」(令和4年)、指定都市条例では「岡山市市民協働による自立する子どもの育成を推進する条例」(平成18年)、「札幌市子どもの最善の利益を実現するための権利条例」(平成20年)、「相模原市子どもの権利条例」(平成27年)、「新潟市子ども条例」(令和3年)がある。

 なお、平成16年に制定された「高知県こども条例」は平成25年に全部改正され「高知県子ども条例」となったが、「高知県こども条例」が「ですます調」であったのに対して、「高知県子ども条例」は「である調」になっている。

〇 子ども条例以外で、都道府県条例や指定都市条例で「ですます調条例」としては、例えば、「高知県男女共同参画社会づくり条例」(平成15年)、「高知県南海トラフ地震による災害に強い地域社会づくり条例」(平成20年)、「さがみはらみんなのシビックプライド条例」(令和3年)などがある。

 

(その他の条例)

〇 市区町村が制定する自治基本条例、議会基本条例、市民参加条例、環境基本条例、男女共同参画条例、子ども条例以外の条例で、条例本文も「ですます調」であるものとしては、例えば、(秋田県)「横手市雪となかよく暮らす条例」(平成17年)、(北海道)「名寄の冬を楽しく暮らす条例」(平成18年)、(栃木県)「高根沢町ハートごはん条例」(平成19年)、(愛知県)「高浜市みんなで三州瓦をひろめよう条例」(平成26年)、(埼玉県)「あついぞ!熊谷お祭り条例」(平成26年)、(北海道)「恵庭産のビール等による乾杯を推進する条例」(平成28年)、(北海道)「日高町生きる力を育む早寝早起き朝ごはん運動の推進に関する条例」(平成28年)、(愛知県豊田市)「「WE LOVE とよた」条例」(平成29年)、(三重県)「鳥羽市海女のまち条例」(平成29年)、(長野県池田町)「あづみ野池田いきいき食育条例」(令和3年)等があるが、これらはいずれも理念条例である。

 一方、(北海道)「千歳市水道事業給水条例」(平成9年)や(愛媛県新居浜市)「きれいなまち新居浜をみんなでつくる条例」(平成13年)も、条例本文は「ですます調」であるが、「実態規定・手続規定、さらに罰則もある条例で、ですます調とするのは珍しいのではないか」(出石解説119頁)とされる。

 

(ですます調の用語の使い方)

〇 出石解説は、条例本文が「ですます調」の場合、その用語の使い方として、大きく2つのタイプに分かれるとしている。1つ目のタイプは、従前の法令用語のルールを踏襲しているもの(「ですます調+従前の用語法」)であり、2つ目のタイプは、できるかぎりの口語調の表現を取り入れているもの(「ですます調+口語調の表現」)である。

〇 まず、「ですます調+従前の用語法」タイプは、伝統的な法制執務を踏襲しつつ、「ですます調」を実現させたものであり、「及び」「又は」「〇、〇等」等の従前の法令用語のルールを使用したうえで、語尾を「ですます調」にしている。

 出石解説は、その例示として、指定都市として初めて自治基本条例として制定された「川崎市自治基本条例」(平成16年制定)をあげている。同条例は、例えば「この条例は、本市の自治の基本を定める最高規範であり、市は、自治運営に関する他の条例、規則等の制定改廃及び運用に当たっては、この条例の趣旨を尊重し、この条例との整合を図ります。」(2条1項)等のように、「及び」、「〇、〇等」等の法令用語を使用したうえで、語尾を「ですます」としている。なお、「川崎市では、条例の文体は『である』体を用いることを原則としていますが、この条例は、自治の基本を定めるものであり、広く市民にご理解いただき、その趣旨を浸透させていただくために、市民に親しみやすい『です・ます』調による文体を条例として初めて用いています(公文書管理規定の特例)。」(川崎市HP「自治基本条例の概要」)としている。

 また、同じく例示として「紫波町循環型まちづくり条例」(平13年制定)をあげているが、同条例は、各条の見出しは、「目的」は「この条例の目的」(1条)、「定義」は「言葉の決まり」(2条)、「基本理念」は「基本的な考え方」(3条)などとし、また、例えば「この条例は、私たち町民や事業者(以下は「私たち」といいます。)と町が、循環型まちづくりを進めるための、基本的な考え方や方法などを定めています。」(1条)としている。「及び」や「又は」ではなく、「や」や「と」を使うなど、むしろ「ですます調+口語調の表現」タイプと考えられる。なお、同条例附則2項は、「この条例は、まちづくりの基本となる考え方や、子どもから大人まで参加をして取り組む方向などが主な内容であることから、分かりやすい表現にしました。」と規定している。

〇 次に、「ですます調+口語調の表現」タイプは、従前の法令用語にとらわれることなく、できる限り口語調を取り入れ、法令用語として一般に使用される「及び」や「又は」は、「と」、「や」、「~たり」などと、「かつ」を「しかも」などとし、また、複数の用語を「・」「、」でつなぎ、漢字の一部をひらがなにするなど、わかりやすく、親しみやすくなるようにしている。

 出石解説は、その例示として、「多治見市環境基本条例」(平成10年制定)をあげている。同条例は、例えば「環境の保全と創出は、すべての者が自主的に、しかも積極的に取り組むことによって行われなければなりません。」(3条3項)、「事業者は、事業活動を行うことによって公害を発生させたり、環境を破壊したりしたときは、自らの責任と負担においてこれを補償したり、原状回復したりしなければなりません。」(5条2項)などと、「と」、「しかも」、「~たり」などの用語を使っている。

〇 令和4年時点で、最近の「ですます調条例」の用語の使い方を見た場合、自治基本条例、議会基本条例、市民参加条例、環境基本条例、男女共同参画条例等では、その大部分は「ですます調+従前の用語法」を取っている傾向にある。自治基本条例や議会基本条例は自治体や議会の行動規範を示し、また、市民参加条例や男女共同参画条例は住民の権利にかかわる規定を有するものであるため、内容の明確性の確保が必要との判断によるものと思われる。

 因みに、栃木県鹿沼市の「鹿沼市自治基本条例」(平成24年制定)は、前文、本文ともに「ですます調」であるが、「市民手づくりの条例として『です・ます』の表現をしながら、あくまでも『公文書』として、また、法令としての厳格性を確保するため、用語や言い回し等は、市職員の支援委員のアドバイスにより、法令用語で整理しました。」(鹿沼市資料「鹿沼市自治基本条例(案)解説」)としている。

 他方、上記で例示した平成30年以降の条例では、(栃木県市貝町)「サシバの里いちかい基本条例」(平成30年)は「ですます調+口語調の表現」タイプである。

 なお、「ですます調+従前の用語法」タイプであっても、「ですます調+口語調の表現」タイプであっても、それぞれに統一したルールがあるわけではなく、各自治体の考え方、判断、さらには好みにより、様々なバリエーションがある。例えば、「及び」や「又は」の法令用語と、「と」、「や」、「・」、「、」などの口語調が混在するものも見られる。

〇 一方、子ども条例は、そのほとんどは「ですます調+口語調の表現」タイプである。特に子どもでも理解できるように、できる限り平易に、文章も短く、漢字も少なくするなど、様々な工夫をするものも少なくない。また、次項で見るように、ふりがなが不必要な常用漢字にふりがなを付ける条例もある。

 例えば、子ども条例としては、箕面市や川崎市と並んで早い時期に制定された東京都世田谷区の「世田谷区子ども条例」(平成13年)は、1条を(条例制定の理由)として「この条例は、子どもがすこやかに育つことができるよう基本となることがらを定めるものです。」と、2条を(言葉の意味)として「この条例で『子ども』とは、まだ18歳になっていないすべての人のことをいいます。」と規定している。また、3条を(条例の目標)として「この条例が目指す目標は、次のとおりとします。」(3条本文)としたうえで、「子ども一人ひとりが持っている力を思い切り輝かせるようにする。」(1号)、「子どもがすこやかに育つことを手助けし、子どものすばらしさを発見し、理解して、子育ての喜びや育つ喜びを分かち合う。」(2号)、「子どもが育っていく中で、子どもと一緒に地域の社会をつくる。」(3号)を列挙するなど、限りなく平易さ、わかりやすさを追求している。

 

【ふりがな多用条例】

〇 ふりがなを付ける必要がないとされる常用漢字にもふりがなを付ける条例は、すべての漢字にふりがなをつけるものと一部の漢字にふりがなをつけるものに分かれる。

 

(全漢字ふりがなタイプ)

〇 このうち、常用漢字であってもすべての漢字にふりがなをつける条例としては、(岡山県)「新見市子ども条例」(平成31年)、(東京都)「江戸川区子どもの権利条例」(令和3年)及び(東京都)「中野区子どもの権利に関する条例」(令和4年)が確認できる。

〇 このうち、江戸川区条例は、前文、全11条、附則から構成されているが、各条文の見出しも含めて、漢数字を除くすべての漢字にふりがながつけられている。「子ども自身が子どもは生まれた時から権利の主体としてその権利が守られることを理解してもらえるように、漢字には全てふりがなをふるなど、子どもにもわかりやすい表記で記載しています。」(江戸川区HP「子どもの権利条例の制定」)としている。

(目的)((もくてき))

第(だい)一条(じょう)  この条例(じょうれい)は、子(こ)どもにとって最(もっと)もよいことは何(なに)かを第一(だいいち)に考(かん)え、子(こ)どもの権利(けんり)を大切(たいせつ)に守(まも)っていくために、その基本(きほん)となる考(かんが)えをみんなで理解(りかい)し、江戸川区(えどがわく)のまち全体(ぜんたい)で子(こ)どもの健(すこ)やかな育(そだ)ちを支(ささ)えていくことを 目的 (もくてき) とします。   ※ ()内はふりがなを表す。

 

(一部漢字ふりがなタイプ)

〇 常用漢字であっても一部の漢字にもふりがなを付ける条例としては、(東京都)「世田谷区子ども条例」(平成13年)、(東京都)「目黒区子ども条例」(平成17年)、(富山県)「魚津市子どもの権利条例」(平成18年)、(岐阜県)「岐阜市子どもの権利に関する条例」(18年)、(滋賀県草津市)「愛する地球のために約束する草津市条例」(平成19年)、(東京都)「小金井市子どもの権利に関する条例」(平成21年)、(兵庫県)「豊岡市いのちへの共感に満ちたまちづくり条例」(平成24年)、(埼玉県入間市)「おいしい狭山茶大好き条例」(令和4年)等が確認できる。

〇 このうち、草津市条例は、前文、全17条、附則から構成されているが、「地球温暖化問題は、特定の人々の問題ではありません。私たち一人ひとりの問題であり、自主的に取り組んでいただくことが重要です。このようなことから、本条例において条文には平易な表現を使用し、また小学校4年生を基準にルビを付すなど、誰にもわかりやすい条例としています。」(草津市HP「愛する地球のために約束する草津市条例」)としている。

(目的)

第1条 この条例(じようれい)は、草津市(くさつし)の環境(かんきよう)に対する基本的(きほんてき)な考え方を決めている草津市環境基本条例(くさつしかんきようきほんじようれい)(平成(へいせい)9年草津市条例(くさつしじようれい)第10号)により、市役所、市民(しみん)および事業者ならびに学校、町内会、グループなど(これからは「団体(だんたい)等」と呼(よ)びます。)ならびに草津市(くさつし)を訪(おとず)れた人の役割(やくわり)を明らかにし、地球のために約束(やくそく)する協定(きようてい)(これからは「協定(きようてい)」と呼(よ)びます。)によって、それぞれが地球温暖化(おんだんか)を防(ふせ)ぐとともに気候(きこう)の変動(へんどう)に適応(てきおう)するための取り組みを行い、またそれに協力(きようりよく)することにより、私(わたし)たちがこれからも健康(けんこう)で豊(ゆた)かな生活が送れることを目的(もくてき)とします。  ※ ()内はふりがなを表す。

〇 小金井市条例は、前文、全11条、附則から構成されているが、「漢字の使用については、原則として小学校で学習する漢字のみを使用することとし、学習しない漢字についてはふりがなをふる、別の表現に置き換える等工夫している。」「小学校で学習する漢字でも、ひらがなを使用する方がよいと考えられたものはひらがなを使用している。 例 もとづく、ゆたか、ほしい、子ども、おとな、障がい、ひとり、やさしいまち、そんなとき、いかす」(小金井市資料「小金井市子どもの権利に関する条例の手引(一般用)」)等としている。

(条例が目指すこと)

第1条 この条例は、おとなと同じように子どもが権利の主体であるということにもとづいて、子どもにとって大切な権利を、子どもにもおとなにもはっきり分かるようにします。子どもは、その年(ねん)齢れいや成長に応じ、おとなとのかかわりや子どもどうしのかかわり合いの中から、互(たが)いの権利の尊重、社会での役割や責任などを学び、権利を実現していく力を培(つちか)っていくのです。子どもが生き、暮らし、活動する場で、市や市民その他の人たちが何をしたらよいかを定めることにより、子どもの権利の保障を図り、すべての子どもが生き生きと健やかに安心して暮らせるまち小金井をつくることを目指します。  ※ ()内はふりがなを表す。

 

【英語表記条例】

〇 条例を英語で表記している条例としては、群馬県嬬恋村の「嬬恋村人権宣言条例」(令和2年)及び宮崎県都城市の「都城市スマートシティ推進条例」(令和5年)が確認できる。

〇嬬恋村条例は、前文、全8条、附則から構成されているが、それぞれ毎に、日本文と英文が併記されている。「外国人や学校での活用を想定し、全文に英訳も併記した。」(読売新聞ネット版 令和2年12月9日)とされる。

第1条 村民は、すべての基本的人権の享有を妨げられません。基本的人権は、侵すことのできない永久の権利として、現在及び将来の村民に与えられます。

Article 1.The people shall not be prevented from enjoying any of the fundamental human rights.These fundamental human rights shall be conferred upon the people of this and future generations as eternal and inviolable rights.

〇都城市条例は、3条でスマートシティの推進に関する5つの基本原則を規定しているが、それぞれの基本原則の見出しは英語表記にしている。都城市は「この基本原則については、G20 Global Smart Cities Allianceが世界的基準として策定したものであり、英単語の直訳では意味を捉えきれないことから、英単語を掲載した上で、本市の解釈を記載しています。」(都城市資料「都城市スマートシティ推進条例 逐条解説」5ページ)としている。

1 (Equity, Inclusion & Societal impact)
2 (Transparency & Privacy)
3 (Operational & Financial Sustainability)
4 (Safety, Security & Resiliency)
5 (Interoperability & Openness)



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