ひきこもり支援に関する条例

(令和5年11月27日更新)

【埼玉県条例】

〇 埼玉県は、議員提案により、令和4年3月に、

埼玉県 埼玉県ひきこもり支援に関する条例 令和4年3月29日公布 令和4年3月29日施行

を制定した。

〇 ひきこもりに関しては、これまで「子どもに関する条例」において、子どものひきこもりへの対応に関して規定を置く条例があったが、本条例は、ひきこもり支援に関する単独条例として、全国で初めてのものとなる。また、子どものみならず、世代を問わないひきこもりを対象としている。

 ひきこもりは、過去は主として子どもの不登校問題としてとらえられてきた面があるが、就職しない・就職できない若者の増加やひきこもりの長期化などにより、現在では、子どものみならず、若年層、中高年層の問題でもあるとされ、8050問題なども指摘されている。本条例は、そうした課題にも視野を広げた条例であるとも言える。

〇 「ひきこもり状態」を「自宅又は自室に長期間閉じこもり、他人又は社会とのかかわりを回避している状態」(2条2号)、「ひきこもり支援」を「ひきこもり状態にある者及びその家族に対する支援並びに民間支援団体等の活動に対する支援」(2条1号)と定義づけたうえで、「ひきこもり支援に関し、基本理念を定め、県の責務及び民間支援団体等の役割を明らかにするとともに、民間支援団体等による支援を推進するために必要な事項を定めることにより、安心して支援を受けられる社会を実現すること」(1条)を目的とする。

〇 基本理念として、ひきこもり支援は、①ひきこもり状態にある者の意思を尊重して行うこと、②ひきこもり状態にある者及びその家族が孤立しないよう、必要に応じて社会とのかかわりをもてるよう行うこと、③ひきこもり状態にある者及びその家族が身近な場所で支援を受けられることを目指して行うこと、の3点を定め(3条)、県の責務としてひきこもり支援に関する施策を総合的に実施すること(4条)などを、民間支援団体等の役割として県及び市町村と連携を図りながらひきこもり状態にある者及びその家族に対する支援を行うよう努めること(5条)を規定している。あわせて、県の施策として、民間支援団体等による支援の推進、体制の整備及び財政上の措置を規定している(6条~8条)。

〇 本条例については自治体法務研究2022年冬号条例制定の事例CASESTUDY「埼玉県ひきこもり支援に関する条例」を、埼玉県のひきこもり支援の取組みについては埼玉県HP「ひきこもり支援」を参照されたい。

 

【大和市条例】

〇 大和市は、令和4年9月に、

神奈川県大和市 大和市こもりびと支援条例 令和4年9月27日公布 令和4年9月27日施行

を制定した。

〇 「大和市では、一人一人に寄り添いたいとの思いから、『ひきこもり』ではなく、より温かみのある『こもりびと』という呼称を使っています。」としたうえで、「ひきこもるきっかけやその背景は様々ですが、共通して言えるのは、ひきこもりの状態にある人やその家族等にとって、周囲の理解がとても大切であるということ。そして、当事者や家族の気持ちに寄り添い、こもりびとに対する市民の理解を深め、関係機関と協力しながら支援を行っていくことが必要と考えています。こうしたことから、こもりびとの皆さんが自らの意思で再び社会と関わりを持ちたいと思ったときに、必要な支援につながることができる地域社会を築くことを目的に、『大和市こもりびと支援条例』を制定しました。」(大和市HP「「大和市こもりびと支援条例」を制定」)としている。

〇 「こもりびと」を「様々な要因の結果として社会的参加(就学、就労、家庭外での交遊等をいう。以下同じ。)を回避し、市内においておおむね6月以上にわたり家庭等にとどまり続けている状態の者」(2条1項)と定義づけ、基本理念として、①こもりびとに関する市民の理解が深められ、こもりびと及びその家族等が生活する上でその尊厳が保持されること、②こもりびと一人一人の生き方及び価値観が尊重され、自らの意思で社会とつながるために多様な選択肢が示されること、③こもりびと及びその家族等が必要とする支援が適時に行われること、の3点を定め(3条)、市の責務(4条)、市民及び関係機関の役割(5条、6条)、こもりびとの支援に関する基本的施策(7条)、財政上の措置(8条)を規定している。

〇 本条例の内容等については、前記大和市HP「「大和市こもりびと支援条例」を制定」を参照されたい。

 

【江戸川区条例】

〇 江戸川区は、令和5年11月に、

東京都江戸川区 ひきこもりの状態にある人やその家族等へのサポート推進条例 令和5年11月6日公布 令和5年11月6日施行

を制定した。

〇 「区では、令和2年度からひきこもり相談窓口を開設、令和3年度にひきこもり実態調査を実施し、区内に9,096人のひきこもりの状態にある方がいることを把握しました。ひきこもりの状態にある方やその家族等の声からひきこもりの状態から回復するためには、区、関係機関、地域等がひきこもりの状態にある人等とつながり続けることが大切であるということが見えてきました。そこで、区では、江戸川区オンライン居場所や江戸川区駄菓子屋居場所よりみち屋の開設、また、区民や地域を対象に講演会を実施し、ひきこもりの状態への理解促進に努めています。こうした動きの中で、ひきこもりの状態にある人やその家族等へのさらなるサポートの充実と、区民等への理解促進を進め、ひきこもりの状態にある人やその家族等に寄り添い、一人ひとりの思いが尊重され、誰もが安心して暮らせるまちを実現するためにこの条例を制定しました。」(江戸川区HP「ひきこもりの状態にある人やその家族等へのサポート推進条例」)としている。

〇 「ひきこもりの状態にある人」を「 江戸川区内(以下「区内」という。)に居住する者であって、様々な事情によって社会的参加(就学、就労、家庭外での交遊等)を避け、おおむね家庭にとどまり続けている状態又はこれに近い状態にあるもの」(2条1号)と定義づけ、基本理念として、①ひきこもりの状態にある人が、地域の一員として、その生き方及び価値観が尊重され、自分らしい暮らしを選択することができること、②ひきこもりの状態にある人等が、悩み又は不安を一人で抱え孤立することなく、区、区民等、事業者及び支援団体に相談し、その状況に応じた必要なサポート又は配慮を求めることができること、の2点を定め(3条)、区の責務(4条)、区民等・事業者・支援団体の役割(5条、6条)、推進施策(7条)、災害対応における配慮(8条)、変化への対応(9条)、委任(10条)を規定している。

〇 本条例の内容等については、前記江戸川区HP「ひきこもりの状態にある人やその家族等へのサポート推進条例」を参照されたい。

 

【その他ひきこもりに関して規定する条例】

〇 「子どもに関する条例」において、子どものひきこもりへの対応に関して規定を置くものとしては、例えば、

愛知県豊田市

豊田市子ども条例

平成19年10月9日公布 平成19年10月9日施行
兵庫県明石市

明石市こども総合支援条例

平成28年12月26日公布 平成29年4月1日施行
神奈川県鎌倉市

子どもがのびのびと自分らしく

育つまち鎌倉条例

令和2年3月13日公布 令和2年3月13日施行

などである。

〇 豊田市条例は、特別なニーズのある子ども・家庭への支援として「市、育ち学ぶ施設、市民及び事業者は、外国籍の子ども、障害のある子ども、ひとり親家庭の子ども、経済的に困難な家庭の子ども、不登校の子ども、社会的ひきこもりの子ども、虐待を受けた子ども、心理的外傷を受けた子ども、非行を犯した子どもなどで、特別なニーズがあると考えられる子どもとその家庭に気を配り、適切な支援をしなければなりません。」(14条)と規定している。

〇 また、明石市及び鎌倉市の条例は、不登校及びひきこもりに関する取組として「市は、保護者、市民等、学校等関係者及び事業者と連携し、不登校及びひきこもりに関する問題の解決のために必要な施策を講ずるものとする。」(明石市条例14条)、「市は、保護者、地域住民等、育ち学ぶ施設の関係者及び事業者と連携し、不登校及びひきこもりに関する課題の解決のために必要な施策を講ずるよう努めるものとする。」(鎌倉市条例15条)と規定している。

〇 なお、

北海道神恵内村 神恵内村健康づくり推進条例 平成28年3月10日公布 平成28年4月1日施行

は、健康づくりの観点から、村の重点的配慮事項の一つとして「心の状態をより良く保つため、ひきこもりを防止し、活動範囲の拡大と支援の充実に関すること。」(11条3号)と規定しており、世代を問わないひきこもりに関する規定を置いている。

 

【ひきこもり支援に関する国・自治体の取組み等】

〇 「ひきこもり」の定義については、「ひきこもりの評価・支援に関するガイドライン」(平成22年5月 厚生労働科学研究費補助金こころの健康科学研究事業 「思春期のひきこもりをもたらす精神科疾患の実態把握と 精神医学的治療・援助システムの構築に関する研究」)は、「様々な要因の結果として、社会的参加(義務教育を含む就学、非常勤職員を含む就労、家庭外での交遊)を回避し、原則的には6か月以上にわたって概ね家庭にとどまり続けている状態(他者と交わらない形での外出をしていてもよい)を示す現象概念」としている。

 また、内閣府が実施したひきこもりに関する調査(「若者の生活に関する調査報告書(平成28年9月)―平成27年12月実施―」及び「生活状況に関する調査 (平成30年度)―平成30年12月実施―」)によれば、ひきこもりの者の推計数は、15歳~39歳は約54.1万人(平成27年12月実施)、40歳~64歳は約61.3万人(平成30年12月実施)とされている。

 さらに、内閣府が実施した「こども・若者の意識と生活に関する調査 (令和4年度)」(令和5年3月公表)によると、調査対象(全国の10~69歳の男女3万人に郵送やオンラインで実施し、1万3769人から有効回答)のうちひきこもり状態にある者の割合は、15~39歳で2.05%、40~64歳で2.02%とされている。全国の数字に当てはめめると、15~64歳でひきこもり状態にある者は146万人と推計される(朝日新聞平成5年3月31日オンライン配信「「ひきこもり」全国146万人、5人に1人がコロナ理由 内閣府調査」」参照)。

〇 ひきこもりに関して、厚生労働省は、平成21年度からひきこもり地域支援センター設置運営事業を、平成25年度からひきこもり支援に携わる人材の養成研修を、平成30年度からひきこもりサポート事業を、令和4年度からひきこもり支援ステーション事業を実施してきており、また、令和5年3月末時点で、ひきこもり相談窓口を明確化している自治体は1430団体で、ひきこもり状態にある方の実態等に係る調査を実施している自治体は980団体である(厚生労働省HP「ひきこもり支援推進事業」)とされる。

 また、令和3年6月には、「ひきこもり支援に関する関係府省横断会議」が設置され、この会議での議論を踏まえ、令和3年10月1日に関係省庁が「ひきこもり支援における関係機関の連携の促進について(依頼)」を発出している。


 

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