外国人に関する条例

(令和6年10月24日作成)

【はじめに】

〇 本稿では、外国人に関する条例を取り上げる。なお、本稿では、「外国人」とは「日本の国籍を有しない者」(出入国管理及び難民認定法2条1号)を意味するものとする。

 外国人であっても、自治体に生活の本拠である住所を有する外国人は、当該自治体の住民である。地方自治法10条1項は「市町村の区域内に住所を有する者は、当該市町村及びこれを包括する都道府県の住民とする。」と規定し、自然人であれば生活の本拠がその者の住所となり、国籍の如何を問わない(松本英昭「新版逐条地方自治法第9次改訂版」(学陽書房 平成13年)105頁)とされるからである。また、同条2項では「住民は、法律の定めるところにより、その属する普通地方公共団体の役務の提供をひとしく受ける権利を有し、その負担を分任する義務を負う。」と規定され、住民である外国人(以下「外国人住民」という。)も、選挙権のように国民固有の権利とされているものは別として、その自治体から行政サービスを受ける権利を有するとともに納税等の義務を負うことになる。

 したがって、一般的に各自治体が制定する条例で「住民」と規定する場合は、特段の規定が置かれていない限り、外国人住民も含まれることになる。そのため、外国人住民や自治体において居住し、または活動する外国人を対象として特に制定された条例は必ずしも多くない。

 

【多文化共生の推進に関する条例】

〇 近年、グローバル化の進展等に伴い、外国人住民等が急増し、自治体として外国人住民等に対する様々な課題に対応することが求められている。こうしたことを踏まえ、総務省は、平成18年3月、「国籍や民族などの異なる人々が、互いの文化的差異を認め合い、対等な関係を築こうとしながら、地域社会の構成員として共に生きていくような、多文化共生の地域づくりを推し進める必要性が増してい」るとして、「地域における多文化共生推進プラン」(平成18年3月27日付け総務省自治行政局国際室長通知「地域における多文化共生推進プランについて」参照)を策定した。そして、多くの自治体では、多文化共生の推進に係る指針や計画を策定し、地域における多文化共生の推進に関する施策を実施している。

 多文化共生の推進に関する総務省及び自治体の取組み等については、総務省HP「多文化共生の推進」を参照されたい。

〇 一部の自治体では、多文化共生の推進に関する条例を制定している。以下のような条例が確認できる。

宮城県

多文化共生社会の形成の推進に関する条例

平成19年7月11日公布

平成19年7月11日施行

静岡県

静岡県多文化共生推進基本条例

平成20年12月26日公布

平成20年12月26日施行

滋賀県湖南市

湖南市多文化共生社会の推進に関する条例

平成24年3月28日公布 平成24年3月28日施行
東京都世田谷区

世田谷区多様性を認め合い男女共同参画と

多文化共生を推進する条例

平成30年3月6日公布 平成30年4月1日施行
愛知県半田市

半田市多文化共生社会の推進に関する条例

平成31年4月1日公布

平成31年4月1日施行

神戸市

神戸市外国人に対する不当な差別の解消と

多文化共生社会の実現に関する条例

令和元年6月18日公布 令和2年4月1日施行
長野県白馬村

白馬村多文化共生社会の推進に関する条例

令和2年9月25日公布 令和2年9月25日施行
群馬県

群馬県多文化共生・共創推進条例

令和3年3月26日公布

令和3年4月1日施行

静岡県静岡市

静岡市多文化共生のまち推進条例

令和4年7月12日公布

令和4年7月12日施行

東京都江戸川区

多文化共生のまち推進条例

令和5年12月20日公布

令和5年12月20日施行

〇 これらの条例のうち、宮城県、静岡県、湖南市、半田市、群馬県、静岡市及び江戸川区は、多文化共生(社会)の推進に関して、概ね、基本理念、自治体、住民等の責務、計画の策定等を定めている(静岡県条例は基本理念については定めず、江戸川区条例は計画策定については定めていない。)。

 多文化共生については、例えば、静岡県条例は「県内に居住する外国人及び日本人が、相互の理解及び協調の下に、安心して、かつ、快適に暮らすこと」(2条)と定義づけている。

 群馬県条例は、多文化共生・共創社会の形成の推進(1条)を目的としているが、「多文化共生」を「国籍、民族等の異なる人々が、互いの文化的な違いを認め合い、対等な関係を築こうとしながら、安心して、かつ、快適に暮らすこと」(2条1項)、「多文化共創」を「国籍、民族等の異なる人々が、多様性を生かしつつ、文化及び経済において新たな価値を創造し、又は地域に活力をもたらすこと」(同条2項)と定義づけている。

 江戸川区条例は、多文化共生施策として、啓発・広報、交流機会の創出、コミュニケーション支援、生活支援、拠点の整備・運営等を掲げている(6条)。

 宮城県条例は多文化共生社会推進審議会の設置(14条)、静岡県条例は多文化共生審議会の設置(12条)、静岡市条例は多文化共生協議会の設置(12条)を、それぞれ定めている。

 静岡県条例については、自治体法務研究2012年春号条例制定の事例CASESTUDY「「静岡県多文化共生推進基本条例」の制定について」を参照されたい。

〇 世田谷区条例は、男女共同参画及び多文化共生の推進(1条)を目的とし、基本理念、区、区民等の責務、基本的施策、行動計画の策定、審議会の設置等を定めているが、「何人も、性別等の違い又は国籍、民族等の異なる人々の文化的違いによる不当な差別的取扱いをすることにより、他人の権利利益を侵害してはならない。」(7条1項)と規定し、不当な差別的取扱いを禁止し、併せて、苦情処理手続きに関する規定(11条、12条)を置いている。

〇 神戸市条例は、「外国人に対する不当な差別を解消するとともに、それぞれの文化を尊重し合い共に生きる多文化共生社会を構築する」(1条)ことを目的とし、市民の責務、相談体制の整備、教育の充実、啓発活動、情報提供等を定めている。

〇 白馬村条例は、多文化共生社会の推進に関して、基本理念、村、議会、事業者及び村民の責務、広報活動及び調査研究を定めている(2条~7条)が、それに加えて、多文化共生支援員の設置、情報の共有、情報収集及び管理、個人情報の保護を定めている(8条~11条)。個人情報の保護として、村は、多文化共生支援員が有する外国人住民の個人情報を収集することができ、緊急かつやむを得ない必要があるときは、多文化共生支援員に個人情報を提供することができる(11条2項、3項)との規定を置いている。

 本条例の制定趣旨は、「村は外国人観光客や外国人住民が急増し、共にまちづくりと村の経済を発展させるとともに、多文化共生の生活文化を築いてきた。また、緊急時において土地所有者と連絡が取れないとの意見が寄せられた。外国人の不動産所有を中心とした個人情報の収集により緊急時の対応をするための条例」(白馬議会だより134号(令和2年10月31日発行)4~5頁)とされる

〇 多文化共生の推進に関しては、自治体法務研究2012年春号特集「多文化共生の推進ー自治体における外国人施策ー」を参照されたい。

 

【外国人材の確保・支援に関する条例】

〇 人口減少に伴い、各地域において人手不足が深刻化する一方で、特定技能の在留資格制度等により、地域における新たな担い手として外国人材の確保・活用が期待され、また、その積極的な受け入れや支援が行政として求められるようになってきている。

〇 こうした観点から、岡山県は、令和6年10月に、外国人材等への支援の推進のための条例を制定した。すなわち、

岡山県

岡山県外国人材等支援推進条例

令和6年10月8日公布

令和7年4月1日施行

である。

 本条例は、「外国人材」を「出入国管理及び難民認定法(・・・)別表第一又は同表第二に定める在留資格を有する者であって、県内で就労している、又は就労しようとする外国人」(2条2号)、「外国人材等」を「県内で就労している、又は就労しようとする外国人及び当該外国人が家族として帯同している外国人並びに県内で就労しようとする留学生」(1条)と定義づけたうえで、外国人材等に対し、「その受入れ、生活等に対する多様な支援(・・・)の仕組みを産業、行政、教育及び労働の各分野(・・・)の連携により構築することを推進する」(1条)ことを目的としている。

 外国人材等への支援に関して、基本理念(3条)、県の責務(4条)、市町村の役割(5条)、県民・事業者・教育機関の役割(6条~8条)、計画の策定(9条)、日本語教育の機会(10条)、協議会の設置(11条)等を定めている。

〇 外国人の介護人材の確保のため、助成金の支給や支援資金の貸与を定める条例もある。

奈良県

奈良県介護従事者確保のための外国人留学生修学支援資金貸与条例

令和元年10月15日公布

令和元年10月15日施行

島根県飯南町

飯南町外国人介護福祉人材確保対策事業条例

令和2年3月17日公布

令和2年4月1日施行

である。

 奈良県条例は、「県内の介護従事者の不足の状況に鑑み、介護関係業務への外国人労働者の参入の促進を図るため、将来県内において介護福祉士の業務に従事しようとする留学生を修学資金の貸与により支援する法人に対し、その支援に要する資金(以下「支援資金」という。)を貸与すること」(1条)を目的とし、支援資金の貸与の対象法人(3条)、支援資金の額(4条)等を定めている。

 飯南町条例は、「飯南町内の福祉施設に介護福祉士として勤務する意思のある外国人学生(以下「外国人学生」という。)の就学と就労を円滑に進めるため、外国人学生を雇用しようとする福祉施設で構成する団体(以下「福祉団体」とする。)に対し助成を行い、介護福祉人材を確保すること」(1条)を目的とし、「福祉団体に対し予算の範囲内で飯南町外国人介護福祉人材確保対策事業助成金を交付する」(3条)としている。

 

【その他外国人に関する条例】

(ヘイトスピーチに関する条例)

〇 特定の国の出身者であること又はその子孫であることのみを理由に、日本社会から追い出そうとしたり危害を加えようとしたりするなどの一方的な内容の言動であるヘイトスピーチについては、平成28年6月に「本邦外出身者に対する不当な差別的言動の解消に向けた取組の推進に関する法律」が議員立法により制定され、理念的な規定が置かれたが、大阪市、東京都、大阪府、川崎市等の自治体では、さらに踏み込んで、ヘイトスピーチの拡散防止措置を定め、または、ヘイトスピーチの禁止を明記する条例を制定している。

〇 これらのヘイトスピーチに関する条例は、「ヘイトスピーチに関する条例」において詳しく紹介しているので、参照されたい。

 

(住民投票の投票資格者に外国人住民も含めている条例)

〇 選挙権及び被選挙権、条例の制定改廃請求権、事務の監査請求権、議会の解散請求権並びに議員、長等の解職請求権は、日本国籍を有する住民のみに認められており(地方自治法11条~13条)、日本国籍を有しない外国人住民には認められていない(なお、住民監査請求及び住民訴訟については、外国人住民も監査請求者や訴訟提提起者となることは認められている(地方自治法242条、242条の2)。)。

 また、地方自治特別法に対する住民投票(憲法95条、地方自治法262条)、市町村の合併の特例に関する法律で定める合併協議会の設置に関する住民投票(4条)、大都市地域における特別区の設置に関する法律で定める特別区の設置に関する住民投票(7条)についても、その投票権は、選挙権を有する者(公職選挙法9条)に認められており、日本国籍を有しない外国人住民には認められていない。

〇 他方、特定の課題について住民の賛否を問うため、自治体が独自に条例を制定してその条例に基づき住民投票を行う場合には、その投票権を誰に与えるかは、自治体が条例で決めることとなる。少なからぬ条例では、外国人住民も住民投票の投票資格者としている。

 例えば、令和6年6月1日時点で常設型住民投票条例と見なしうる79条例(79条例については「住民投票に関する条例」を参照のこと)のうち、外国人住民も住民投票の投票資格者としているのは、44条例(愛知県高浜市、広島市、埼玉県美里町、広島県大竹市、千葉県我孫子市、埼玉県鳩山町、北海道増毛町、石川県宝達志水町、大阪府岸和田市、三重県名張市、神奈川県逗子市、山口県山陽小野田市、神奈川県大和市、北海道遠軽町、北海道稚内市、鳥取県北栄町、大阪府豊中市、川崎市、岩手県宮古市、北海道北広島市、新潟県上越市、岩手県奥州市、滋賀県野洲市、岩手県滝沢市、長野県小諸市、岩手県西和賀町、北海道美幌町、鳥取県日吉津村、長野県信濃町、宮城県柴田町、静岡県掛川市、奈良県生駒市、北海道苫小牧市、北海道北見市、大分県杵築市、滋賀県愛荘町、北海道占冠村、千葉県流山市、兵庫県宍粟市、大阪府阪南市、滋賀県米原市、長崎県長崎市、東京都小金井市及び埼玉県和光市の条例)がある。

 44条例のうち28条例は、投票資格を有する外国人住民を永住者(出入国管理及び難民認定法(以下「入管法」という。)別表第2の上欄の永住者の在留資格をもって在留する者)及び特別永住者(日本国との平和条約に基づき日本の国籍を離脱した者等の出入国管理に関する特例法に定める特別永住者)に限っているが、大阪府豊中市条例は住民基本台帳に記録されている者(豊中市自治基本条例30条1項で外国人を含むことを明記)、神奈川県逗子市条例は入管法19条の3の中長期在留者、岩手県奥州市条例は入管法の在留資格を有し1年を超えて市の住民基本台帳に記録されている者、大阪府岸和田市、神奈川県大和市、北海道稚内市、川崎市、北海道北広島市、滋賀県野洲市、岩手県西和賀町、北海道美幌町、静岡県掛川市、大分県杵築市及び北海道占冠村の条例は入管法の在留資格を有し3年を超えて日本に住所を有する者(又は市の住民基本台帳に記録されている者)、奈良県生駒市及び長崎県長崎市の条例は入管法の在留資格を有し5年を超えて市の住民基本台帳に記録されている者をも対象としている。

 住民投票に関する条例については、「住民投票に関する条例」を参照されたい。

 

(外国人である自治体職員の給与等を定めている条例)

〇 外国人を自治体職員として採用することについては、「政府は、従来から、公権力の行使又は公の意思の形成への参画に携わる公務員となるためには日本国籍を必要とし、公権力の行使とは、一般に、統治権の発動として行われる行為を広く指し示すものであり、国又は地方公共団体が人の権利義務を直接変動させ、又はその範囲を画定する効果を法律上認められている行為等人の権利義務に直接具体的効果を及ぼす行為をいい、公の意思の形成への参画とは、国又は地方公共団体の活動について、その企画、立案、決定等に関与することをいうものと解している」(「令和6年6月4日付け参議院議員神谷宗幣君提出地方自治体職員の国籍に関する質問に対する答弁書」)とされる。

 したがって、外国人は、公権力の行使又は公の意思の形成への参画に携わる職には就くことができず、それ以外の職には就くことができるということとなる。

〇 外国人の自治体職員の給与等を定めている条例としては、例えば、以下のような条例がある。

山形県

山形県語学指導等に従事する外国人の報酬及び費用弁償の支給

に関する条例

昭和62年7月9日公布

昭和62年7月9日施行

福島県郡山市

郡山市語学指導等を行う外国人の給与及び費用弁償に関する条例

昭和62年9月21日公布

昭和62年10月1日施行

青森県野辺地町

野辺地町外国語指導助手の給与及び費用弁償に関する条例

令和2年3月18日公布

令和2年4月1日施行

 いずれも、語学指導等を行う外国人の給与等を定めている。

 各条例ともに、地方公務員法22条の2第1項第1号に規定する会計年度任用職員として任用される語学指導等を行う外国人を対象としている(1条)。



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