学力向上・教育情報化・教育環境等に関する条例
(令和7年4月19日更新)
〇 子どもに関する条例としては様々なものが制定されている(「子どもに関する条例」を参照)が、本稿では子どもの学力向上、学校教育の情報化、教育環境の整備、遊び場等について規定している条例を紹介する。
【子どもの学力向上】
〇 子どもの学力向上に関する規定を置く条例として、例えば、以下のようなものがある。
北海道釧路市 | 平成25年1月1日公布 | 平成25年1月1日施行 |
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大阪府池田市 | 平成28年6月24日公布 | 平成28年7月1日施行 |
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福岡県嘉麻市 | 平成22年9月30日公布 | 平成22年9月30日施行 |
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平成27年9月18日公布 | 平成27年9月18日施行 |
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神奈川県横須賀市 | 平成25年3月29日公布 | 平成25年4月1日施行 |
〇 釧路市条例は、前文で「教育は、次代を担うすべての子どもたちが学ぶ力と学ぶ意欲を持ち、それぞれの個性を十分に発揮しながら、尊くかけがえのない人生を切り 拓ひらいていくために行われるべきものであり、とりわけ基礎学力の習得が重要である。」、「釧路の宝であるすべての子どもたちに等しく基礎学力の習得を保障するという決意の下、その実現に向けた新たな一歩を踏み出さなければならない。」として、「釧路市の子どもたちに基礎学力の習得を保障するための教育の推進について、基本理念を明らかにしてその方向性を示し、関連する施策を総合的かつ計画的に推進するため、この条例を制定する。」としている。
本条例が制定された経緯として、「釧路市は、2010年度の全国学力・学習状況調査(全国学力テスト)の平均正答率が、都道府県別で下位に低迷する北海道の平均正答率を下回った。このため超党派の市議でつくる『基礎学力問題研究議員連盟』が議員提案により制定した」(牧瀬稔「子ども政策の現状と展望④ 子どもの健全育成を促進する個別条例」(地方行政 令和2年7月20日)5頁)とされる。
基礎学力を「子どもたちが、その心身の発達の段階に応じて学習により身に付けるべき基礎的な能力のうち、義務教育の課程を通じて習得すべき読む能力、書く能力及び計算する能力に係る知識及び技能であって、その向上又は低下の傾向を客観的な数値指標によって把握できるもの」(2条1号)と定義づけたうえで、子どもたちに基礎学力の習得を保障するための教育の推進に関して、基本理念(3条)を定め、市長、教育委員会、市立小学校・中学校・義務教育学校、議会及び保護者の責務(4条~8条)並びに地域の団体等の役割(9条)を明らかにしている。
本条例については、釧路市HP「釧路市の子どもたちに基礎学力の習得を保障するための教育の推進に関する条例」を参照されたい。
〇 池田市条例は、学力の向上だけではなく、「子どもに豊かな心、確かな学力及び健やかな身体を育むための教育」を推進し、「教育日本一のまち池田」を実現することを目的としている。
豊かな心を「他人を思いやる心、生命及び人権を尊重する心、自然及び美しいものに感動する心、正義感及び公正さを重んじる心等」(2条1号)、確かな学力を「学力に代表される知識及び技能、学ぶ意欲並びに主体的に課題を見つけ、学び、判断し、行動し、及びより的確に解決する能力等」(2条2号)と定義づけたうえで、子どもに豊かな心、確かな学力及び健やかな身体を育むための教育の推進に関して、基本理念(3条)を定め、市長、教育委員会、学校等、保護者及び地域の団体等の責務(4条~8条)を明らかにするとともに、基本的な計画の策定(9条)及び総合教育会議の設置(10条)について規定している。
「教育日本一」を標榜する池田市の取組については、池田市資料「「教育日本一」をめざすいけだの教育がわかる本」を参照されたい。
〇 嘉麻市は、平成22年に教育基本条例を制定している。「教育基本条例」は、他に岡山県美作市が「美作市教育基本条例」(令和6年12月20日公布・施行)がある。なお、岩手県大槌町は「大槌町子供の学び基本条例」(平成31年制定)を制定し、大阪府、大阪市及び泉佐野市は「教育行政基本条例」(大阪府教育行政基本条例(平成24年制定)、大阪市教育行政基本条例(平成24年制定)、泉佐野市教育行政基本条例(平成25年制定))を制定し、愛知県犬山市は「犬山市教育委員会基本条例」(平成29年制定)を制定している。
嘉麻市教育基本条例は、教育に関する市の主要施策の一つとして、「少人数指導(1学級を30人以下の児童又は生徒で編成する等の指導形態をいう。)等による学力向上」(5条2項1号)を掲げている。
嘉麻市学力向上推進プロジェクト協議会条例は、「嘉麻市立小中学校に通学する児童生徒の学力向上に関し、情報共有と課題克服の共通認識を持ち、行政、地域、学校及び家庭が相互に連携し、就労できる力の育成に努めるため」、学力向上プロジェクト協議会を設置する(1条)とし、また、「児童・生徒の基礎学力の定着及び家庭学習の習慣化を図り、学習意欲の向上を促すため」、土曜未来塾を設置する(6条1項)としている。
〇 横須賀市条例は、「市内における子どもの学力向上のための取組み等に関し、教育委員会の諮問に応ずるため」、学力向上推進委員会を設置する(1条)としている。横須賀市の学力向上の取組については、横須賀市HP「横須賀市における学力向上の取組について」を参照されたい。
【学校教育の情報化】
〇 学校教育の情報化に関する規定を置く条例として、例えば、以下のようなものがある。
滋賀県 | 令和4年3月25日公布 | 令和4年4月1日施行 |
〇 滋賀県条例は、学校教育の情報化の推進に関する法律21条の規定(地方公共団体の施策)の趣旨にのっとり、「学校教育の情報化の推進に関し、基本理念を定め、県および学校の設置者の責務等を明らかにするとともに、学校教育の情報化の推進に関する基本的な事項等を定めることにより、学校教育の情報化の推進に関する施策を総合的かつ計画的に推進し、もって次代の社会を担う児童生徒の生きる力の育成に資すること」(1条)を目的としている。
県に「学校教育情報化推進計画」の策定を義務づける(6条)とともに、 情報通信技術を活用した指導方法等の普及、情報モラル教育の充実、障害のある児童生徒の教育環境の整備、特別な配慮を要する児童生徒に対する適切な指導、学校の教職員の資質の向上のための研修の実施、県立学校における情報通信技術の活用のための環境の整備、学習の継続的な支援等のための体制の整備、個人情報の保護、人材の確保等県の基本的な施策に関する規定(7条~10条)を置いている。
〇 本条例の内容や検討経緯等については滋賀県教育員会資料「滋賀県生きる力を育むための学校教育の情報化の推進に関する条例について」を、本条例に基づき策定された学校教育情報化推進計画については滋賀県HP「「滋賀県学校教育情報化推進計画」を策定しました」を参照されたい。
【教育環境の整備】
〇 子どもの教育環境の整備等に関する規定を置いている条例として、例えば、以下のようなものがある。
東京都中央区 | 平成11年4月1日公布 | 平成11年4月1日施行 |
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東京都千代田区 | 平成26年12月9日公布 | 平成27年4月1日施行 |
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佐賀県鳥栖市 | 令和元年9月25日公布 | 令和元年10月1日施行 |
〇 中央区条例は、前文で「すべての大人は、家庭、地域社会、学校、文化、風俗、自然など子どもを取り巻くあらゆる環境が、子どもの心身の健全な成長にとって極めて重要なものであることを認識し、教育的な見地からその維持向上に努めなければならない。」とし、「中央区、区民及び事業者が相互に協力しながらそれぞれの役割を果たし、より良い教育環境を実現するため、この条例を制定する。」としている。中央区は、本条例について「かねてより『教育の中央区』を標榜し、質の高い教育の提供に力を注いできた。平成11(1999)年4月には全国初となる『中央区の教育環境に関する基本条例』を制定し、子どもたちの教育環境の維持・向上はすべての大人の責務と位置づけ」た(中央区教育委員会「教育環境の整備に関する基本調査報告書(平成25年2月)」1頁)としている。
教育環境の維持向上に関する目標を掲げたうえで(1条)、区は学校環境の充実、健全育成の推進、地域活動及び家庭教育への支援並びに健康で安全な生活環境の確保に努める(2条~5条)ものとし、併せて区民の役割(6条)、事業者の協力(7条)及び国、東京都等との連携等(8条)について規定を置いている。
〇 千代田区条例は、「子どもは大人とともに社会を構成する一員であり、また未来の社会の担い手であるという認識の下、子どもが健やかに生まれまた育成されるよう、千代田区・・・において、子どもを産み育てることに優しい環境を確保すること」(1条)を目的としている。
区の責務として、「子どもの立場に立って、子どもの最善の利益が実現される環境が実現されるよう努める。」、「児童の権利に関する条約の趣旨を踏まえ、子どもの人権が尊重され、子どもの調和のとれた人格の発達や情操を育む環境が実現されるよう努める。」及び「子育て家庭、行政、企業、地域社会等の社会全体で子育てを支える環境の実現に努める。」(3条1項~3項)としているが、事業者(区以外の者であって、区内において保育・教育サービス事業を実施するもの)が保育・教育サービス事業(子どもに対する保育若しくは教育又はその他の子どもの育成を目的として行われる事業)を実施するに当たり、区が事業者に対して財政面、施設面、運営面、手続面等における支援を行う(5条~9条)ことを主たる内容としている。
〇 鳥栖市条例は、障害がある子どもの保育及び教育の環境整備を推進することを目的として、議員提案により制定されている。「全ての子どもは、障害のあるなしにかかわらず、自らの意思により自分の人生を選択し、自分らしく生きる権利を有するとともに、必要な支援を受けながら、共に学び、共に成長することができる権利を有する」ことを基本理念としたうえで(3条)、障害のある子どもに対する差別の解消と合理的配慮の提供を図るための市と市民の役割を明らかにし(4条、5条)、市が推進する基本的な施策(6条)等について規定している。本条例の内容、制定経緯等については、鳥栖市議会HP「共に学び成長する子ども条例(議員提案による政策条例)」を参照されたい。
本条例については、子どもに特化した障害者差別解消に関する条例であるとも言える。障害者差別解消に関する条例については「障害者差別解消に関する条例」を参照されたい。また、本条例の条例名は長く、読点も含めると61文字ある。長い名前の条例については「長い名前の条例」を参照されたい。
【遊び場・外遊び】
〇 遊び場や外遊びに関する規定を置く条例として、例えば、以下のようなものがある。
東京都千代田区 | 平成25年3月29日公布 | 平成25年4月1日施行 |
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神奈川県大和市 | 平成29年3月30日公布 | 平成29年4月1日施行 |
〇 千代田区条例は、前文で、「今の子どもたちは、塾や習い事などで忙しく、また、室内でゲームなどをして過ごすことが多いことから、昔に比べて外で遊ぶ時間が少なくなっている。一方、都市化の進展により、空き地や原っぱが失われ、公園や広場では他の利用者にも配慮して制約が多いこともあり、子どもたちが自由に遊べる空間が少ないという現状がある。」としたうえで、「かつては、広く社会に『子どもは外で遊んで学び、育つもの』という認識があり、子どもたちは、外遊びを通して人間関係や社会規範などを学び、体力や運動能力も自然と身に付けてきた。いつの時代の子どもたちにも、外遊びは欠かせないものである。」とし、「子どもたちが、外遊びを通して健やかにたくましく育つことのできる社会を築くため、この条例を制定する。」としている。
千代田区が実施する子どもの遊び場に関する施策について定める(2条)とともに、区民等の責務として「子どもが外遊びをすることの必要性及び重要性を理解し、区が実施する施策に協力するよう努める」(3条)、保護者の配慮事項として「子どもが外遊びをするよう促すとともに、そのための時間が持てるよう配慮する」(4条)と規定し、あわせて、推進会議を設置する(5条)としている。
本条例の内容や検討経緯等については、千代田区HP「子どもの遊び場に関する基本条例」及び「子どもの遊び場確保に関する検討会」を参照されたい。
〇 大和市条例は、「遊び場」ではなく「外遊び」に関するものであるが、千代田区条例とほぼ同趣旨の規定を置いている。大和市が実施する子どもの屋外での遊びに関する施策について定める(2条)とともに、市民等の協力として「市民等は、子どもが外遊びをすることの必要性及び重要性を理解し、市が実施する施策に協力するよう努めるものとする。」(3条)、保護者の配慮事項として「子どもが外遊びをするよう促すとともに、そのための時間が持てるよう配慮するものとする。」(4条)と規定している。
大和市は、本条例について「外遊びの必要性・重要性を広くご理解いただくことを趣旨としています。個々のご家庭の状況に応じ、お子様の安全への配慮や勉強 とのバランスなども考慮した上で、無理のない範囲で外遊びを促していただきたいという内容を含んでいますが、これは保護者に方々に外遊びを義務付けしたり強制したりするものではありません。」(大和市HP「大和市子どもの外遊びに関する基本条例が施行されました。」)としている。