分野別基本条例

(令和6年1月18日更新)

【はじめに】

〇 自治体の条例を見ていると、題名に「基本条例」という名称が付された条例がある。

 代表的なものとして「自治基本条例」や「議会基本条例」があるが、それ以外にも、例えば、環境基本条例、中小企業基本条例、防災・災害対策基本条例、産業振興基本条例、文化(芸術)基本条例、犯罪被害者等基本条例、農業(食料・農業・農村)基本条例、交通安全基本条例、住宅(住環境)基本条例、男女共同参画基本条例など、多岐にわたる様々な個別行政分野に関する「基本条例」が制定されている。

 本稿では、「自治基本条例」や「議会基本条例」を除く個別行政分野に関する「基本条例」を取り上げる。こうした条例は「分野別基本条例」とも言われる。

 なお、「自治基本条例」や「議会基本条例」については、それぞれ「自治基本条例」及び「議会基本条例」を参照されたい。

〇 礒崎初仁「自治体政策法務講義(改訂版)」(第一法規 平成30年 以下「礒崎著書」という。)は、「分野別基本条例」を「環境、福祉等の行政分野ごとの理念や施策などの基本的事項を定める条例」と定義づけたうえで、「従前は消費生活、環境等の分野で制定されてきたが、1990年(平成2年)代以降、土地利用、福祉、産業振興などいろいろな分野で制定されている。国においても、土地基本法、環境基本法など『基本法』の制定が進んでいるが、地方分権の流れもあって、自治体においても『基本条例化』の傾向がみられるのである。」(38頁)としている。

 そして、「分野別基本条例は、基本理念や関係者の責務など抽象的な規定が中心であることから、法令への抵触が少ない反面、制定する意味があるか、制定しても実効性がないのではないかという点が指摘されてきた。しかし、第1に、当該自治体の施策方針が明確になり、主体的な施策対応を促進する効果がある。第2に、住民や事業者など関係者の意識を高める効果がある。第3に、法的には、基本条例の規定が法律や実施条例の解釈基準になるという効果も認められよう。逆に言えば、基本条例の制定を具体的な施策対応等につなげなければ、制定の意味は少ないといえる。」(38頁~39頁)とし、さらに「分野別基本条例に定めるべき事項は分野によって様々だが、共通事項としては、①基本理念、②関係者(自治体、住民、事業者)の責務、③基本的施策の列挙、④行政計画等の仕組み、⑤審議会設置等の推進体制の整備をあげることができる。基本条例とはいっても、地域の実情と住民の意向をふまえて、各自治体ならではの工夫や個性を反映させることが望ましい。」(39頁)としている。

〇 「自治基本条例」や「議会基本条例」について論じた論文や著作は多いが、分野別基本条例について論じたものは必ずしも多くなく、川崎政司「7 自治体における基本条例の制定の動向と課題」(「基本法再考(6・完)―基本法の意義・機能・問題性」(自治研究83巻1号(平成19年)) 以下「川崎論文」という。)や脇田英樹「分野別基本条例に関する一考察―求められる機能・役割り・性質とあり方について」(年報自治体学23号(平成22年) 以下「脇田論文」という。)がある。

 

【分野別基本条例の制定状況】

〇 まず、分野別基本条例について、それぞれの分野ごとの基本条例の制定状況を概観する。

 下記の表について、それぞれの基本条例の項目名は当該分野に関する基本条例を意味する。また、条例制定数は題名に「基本」の文言が付された条例の制定数を示している。例えば、「環境基本法」についていえば、題名が「環境基本条例」とするもののみならず、「人と自然にやさしい環境基本条例」、「豊かな環境を守り育てる基本条例」、「環境づくりの基本を定める条例」等とするものも含まれる。他方、()内の条例制定数は、これらに加え題名に「基本」の文言が付されていないものの基本条例とみなし得る可能性があるものを含んだ条例の制定数を示している。なお、条例制定数は、インターネットに掲載されている例規集やその他様々な情報に基づき調査したものであるが、必ずしも全自治体の条例のすべてを網羅できているものではないと考えられるので、留意願いたい。基本法名が記載されているものは、関連する基本法がある場合に、それを示しているものである。

環境基本条例

850条例以上

環境基本法(平成5年)

中小企業振興基本条例

400条例以上(700条例以上)

中小企業基本法(昭和38年)

防災・災害対策基本条例

60条例以上(110条例以上)

災害対策基本法(昭和36年)

産業振興基本条例

50条例程度

文化(芸術)基本条例

40条例(179条例)

文化芸術基本法〈平成13年)

犯罪被害者等基本条例

30条例以上(670条例以上)

犯罪被害者等基本法(平成16年)

農業(食料・農業・農村)基本条例

30条例以上

(旧)農業基本法(昭和36年)

食料・農業・農村基本法(平成11年)

交通安全基本条例

20条例以上(420条例以上)

交通安全対策基本法(昭和45年)

商工業・商業振興基本条例

20条例以上

住宅(住環境)基本条例

15条例以上

住生活基本法(平成18年)

男女共同参画基本条例

15条例以上(700条例以上)

男女共同参画社会基本法(平成11年)

公契約基本条例

15条例(80条例程度)

子ども・子育て基本条例

11条例(190条例程度)

こども基本法(令和4年)

健康(健幸、医療)基本条例

10条例以上

土地基本条例

10条例程度

土地基本法(平成元年)

平和基本条例

9条例(20条例程度)

観光基本条例

8条例(60条例以上)

(旧)観光基本法(昭和38年)

観光立国推進基本法(平成18年)

福祉基本条例

8条例

森林・林業基本条例

8条例

森林・林業基本法(昭和39年)

食育基本条例

7条例(30条例程度)

食育基本法(平成17年)

景観基本条例

7条例

安全・安心基本条例

7条例

再生可能(自然)エネルギー基本条例

6条例

エネルギー政策基本法(平成14年)

教育基本条例

6条例

(旧)教育基本法(昭和22年)

教育基本法(平成18年)

開発基本条例

6条例

人権尊重基本条例

5条例

住民参加基本条例

5条例

定住基本条例

5条例

自殺対策基本条例

4条例

自殺対策基本法(平成18年)

障害者基本条例

3条例(120条例以上)

障害者基本法(昭和45年)

がん対策基本条例

3条例(70条例以上)

がん対策基本法(平成18年)

地域公共交通基本条例

3条例(15条例程度)

交通政策基本法(平成25年)

高齢社会対策基本条例

2条例

高齢社会対策基本法(平成7年)

食品安全基本条例

2条例(40条例程度)

食品安全基本法(平成15年)

スポーツ振興基本条例

2条例(60条例以上)

スポーツ基本法(平成23年)

官民データ活用推進基本条例

2条例

官民データ活用推進基本法(平成28年)

消費生活基本条例

1条例(140条例程度)

消費者基本法(昭和43年)

知的財産基本条例

1条例(3条例)

知的財産基本法(平成14年)

生物多様性基本条例

1条例(10条例程度)

生物多様性基本法(平成20年)

ギャンブル等依存症対策基本条例

1条例

ギャンブル等依存症対策基本法(平成30年)

 上記の表に掲載されている分野別基本条例のほか、行政基本条例、職員基本条例、行政説明責任基本条例、行財政改革基本条例、財政運営基本条例、公共施設マネジメント基本条例、情報基本条例、警察基本条例、女性活躍基本条例、多文化共生基本条例、青少年基本条例、いじめ防止基本条例、生涯学習基本条例、読書基本条例、子どもの遊び場基本条例、子どもの外遊び基本条例、認知症基本条例、感染症対策基本条例、ワンヘルス推進基本条例、快適な社会づくり基本条例、みどり基本条例、地球温暖化防止基本条例、低炭素社会実現基本条例、空家基本条例、集落振興基本条例、中山間地域振興基本条例、雪対策基本条例、四万十川基本条例、世界遺産基本条例、雇用基本条例、経済活性化基本条例、ものづくり基本条例、食と農の基本条例、畜産振興基本条例、屋台基本条例、危機管理基本条例、暴力団排除基本条例等の分野別基本条例が確認できる。

〇 環境基本条例は、分野別基本条例の中で最も制定件数が多い。題名に「基本」の文言が付された条例だけでも、850以上になる。全国の自治体の約半数が制定していることとなる。

 環境基本条例については、北村喜宣「自治体環境行政法(第8版)」(第一法規 平成30年)第3部「環境基本法と環境基本条例」(77頁以下)が詳しく論じている。同書によると、昭和46年の神奈川県「良好な環境の確保に関する基本条例」(平成8年廃止、同年「神奈川県環境基本条例」制定)を嚆矢として制定され始め、平成5年の環境基本法制定以降、全国の多くの自治体で制定されるようになった。

 同書は、「環境基本条例」を「環境行政の実施にあたっての行政の基本的姿勢を表明した内容を持つ条例」(84頁)とし、題目に「基本」の文言が付された条例のほか、「京都府環境を守り育てる条例」(平成7年)、「神戸市民の環境をまもる条例」(昭和47年、平成6年全部改正)、(福島県)「飯舘村快適環境づくり条例」(平成2年)なども環境基本条例として位置付けている。

〇 中小企業振興基本条例は、環境基本条例に次いで制定件数が多い。

 中小企業家同友会全国協議会によると、中小企業振興基本条例は昭和54年の「墨田区中小企業振興基本条例」を嚆矢として令和5年1月27日現在47都道府県及び669市区町村で制定されているとしている(「中小企業振興に関する条例」参照)。

 これらの条例のうち、「基本」の文言が付されたものは400条例以上で、その他は「中小企業振興条例」等となっている。全体としてみた場合、両者の間には条例の内容等に大きな違いは認められない。

〇 防災・災害対策基本条例は、題名に「基本」の文言が付されたものとしては60条例以上が確認できる。一方、防災対策や災害対策に関する条例であって題名に「基本」の文言が付されていないものは50条例以上が確認できる(「防災対策に関する条例」参照)。これらも、全体としてみた場合、両者の間には条例の内容等に大きな違いは認められない。

〇 産業振興基本条例については、題名に「基本」の文言が付されたものは50条例程度が確認できる。(千葉県)「習志野市産業振興基本条例」(平成16年)、(埼玉県)「吉川市における幸福実感向上を目指したまちづくりのための産業振興基本条例」(平成30年)等である。

〇 文化(芸術)基本条例については、令和5年9月26日時点で確認できる文化政策に関する条例(「文化政策に関する条例」参照)179条例のうち、題名に「基本」の文言が付されたものは40条例であり、この40条例は、1条例(「熊本県文化振興基本条例」(昭和63年))を除き、平成13年の文化芸術基本法の制定以降制定されている。なお、文化芸術基本法制定以降も、題名に「基本」の文言が付されていない文化政策に関する条例も数多く制定されているが、こうした条例についても理念的な規定のみに留まるものは多い。

〇 犯罪被害者等基本条例については、670以上ある犯罪被害者支援に関する条例(「犯罪被害者支援に関する条例」参照)のうち、題名に「基本」の文言が付されたものは30条例以上である。

〇 農業(食料・農業・農村)基本条例については、題名に「基本」の文言が付されたものは30条例以上が確認できる。「山形県農業基本条例」(平成13年)、(北海道)「下川町農業振興基本条例」(平成22年)、(熊本県)「玉名市食料・農業・農村基本条例」(平成27年)等である。

〇 交通安全基本条例については、題名に「基本」の文言が付されたものは20以上が確認できる。(長野県)「塩尻市交通安全基本条例」(平成9年)、「北海道交通安全基本条例」(平成10年)等である。

〇 商工業・商業振興基本条例については、題名に「基本」の文言が付されたものは20条例以上が確認できる。(東京都)「西東京市商工業振興基本条例」(平成18年)、(滋賀県)「彦根市商業振興基本条例」(平成23年)等である。

〇 住宅(住環境)基本条例については、題名に「基本」の文言が付されたものは18条例が確認できる。(東京都)「新宿区の住宅及び住環境に関する基本条例」(平成3年)、(東京都)「品川区住宅基本条例」(平成3年)、(大阪府)「和泉市良好な住環境を守り育てる住宅まちづくり基本条例」(平成13年)等である。

〇 男女共同参画基本条例については、題名に「基本」の文言が付されたものは15条例以上が確認できる。他方、「基本」の文言が付されず「男女共同参画推進基本条例」等とされるものを含めると700以上確認できる(内閣府男女共同参画局「地方公共団体における男女共同参画社会の形成又は女性に関する施策の推進状況(令和5年度)」集計表2-1及び2-2)参照)。

〇 公契約基本条例については、80条例程度ある公契約条例(「公契約条例」参照)のうち、題名に「基本」の文言が付されたものは15条例(「山形県公共調達基本条例」(平成20年)、(埼玉県)「草加市公契約基本条例」(平成26年)、(北海道)「旭川市における公契約の基本を定める条例」(平成28年)等)が確認できる。

〇 子ども・子育て基本条例については、190程度ある子ども・子育て支援に関する条例(「子どもに関する条例」参照)のうち、題名に「基本」の文言が付されたものは11条例(「山形県子育て基本条例」(平成22年)、(福岡県)「宗像市子ども基本条例」(平成24年)、(宮城県)「東松島市子どもの笑顔と生きる力を育む基本条例」(令和4年)、「田原本町こども基本条例」(令和5年)等)が確認できる。

〇 健康(健幸、医療)基本条例については、題名に「基本」の文言が付されたものは10条例以上が確認できる。(愛知県)「岡崎市健康基本条例」(令和元年)、(新潟県)「見附市健幸基本条例」(平成24年)、(静岡県)「島田市地域医療基本条例」(平成29年)、(愛知県)「春日井市健康づくり及び地域医療の確保に関する基本条例」(平成25年)等である。

〇 土地基本条例としては、題名に「基本」の文言が付されたものとして、「高知県土地基本条例」(平成13年)や「横須賀市土地利用基本条例」(平成17年)等の10条例程度が確認できる。

〇 平和基本条例については、20程度ある平和の推進に関する条例(「平和に関する条例」参照)のうち、題名に「基本」の文言が付されたものは9条例((東京都)「中野区における平和行政の基本に関する条例」(平成2年)、「広島市平和推進基本条例」(令和3年)等)が確認できる。

〇 観光基本条例については、60以上ある観光振興に関する条例(「観光振興に関する条例」参照)のうち、題名に「基本」の文言が付されたものは8条例(広島県「ひろしま観光立県推進基本条例」(平成17年)、(鹿児島県)「南種子町観光基本条例」(昭和47年)等)が確認できる。

〇 福祉基本条例については、題名に「基本」の文言が付されたものは8条例が確認できる。(岐阜県)「多治見市福祉基本条例」(平成15年)、(東京都)「日の出町お年寄りにやさしい福祉基本条例」(平成24年)、(大阪府)「池田市支え合いを大切にする福祉のまち基本条例」(平成28年)等である。

〇 森林・林業基本条例については、題名に「基本」の文言が付されたものは8条例が確認できる。(高知県)「檮原町森林づくり基本条例」(平成12年)、(愛知県)「新城市森づくり基本条例」(平成21年)、(北海道)「下川町林業振興基本条例」(平成22年)等である。

〇 食育基本条例については、30程度ある食育に関する条例(「食育・朝ごはんに関する条例」参照)のうち、題名に「基本」の文言が付されたものは7条例(「岐阜県食育基本条例」(平成17年)、(新潟県)「長岡市食育基本条例」(平成26年)等)が確認できる。

〇 景観基本条例については、題名に「基本」の文言が付されたものは7条例が確認できる。「岐阜県景観基本条例」(平成16年)、(滋賀県)「古都大津の風格ある景観をつくる基本条例」(平成16年)等である。なお、景観条例については、700以上の条例が制定されている(「景観条例」参照)。

〇 安全・安心基本条例については、題名に「基本」の文言が付されたものは7条例が確認できる。(京都府舞鶴市)「市民の安全と安心に関する基本条例」(平成15年)、(東京都)「狛江市安心で安全なまちづくり基本条例」(平成24年)等である。

〇 再生可能(自然)エネルギー基本条例については、題名に「基本」の文言が付されたものは6条例が確認できる。(滋賀県)「湖南市地域自然エネルギー基本条例」(平成24年)、(東京都)「八丈町地域再生可能エネルギー基本条例」(平成25年)、(高知県)「土佐清水市再生可能エネルギー基本条例」(平成28年)等である。なお、再生可能エネルギーの利用促進に関する条例については、40条例以上制定されている(「再生可能エネルギーの利用促進に関する条例」参照)。

〇 教育基本条例については、題名に「基本」の文言が付されたものは、教育基本条例(福岡県「嘉麻市教育基本条例」(平成22年))、教育環境基本条例((東京都)「中央区の教育環境に関する基本条例」(平成11年))、教育行政基本条例(「大阪府教育行政基本条例」(平成24年)等3条例)及び教育委員会基本条例((愛知県)「犬山市教育委員会基本条例」(平成29年))をあわせて、6条例が確認できる。

〇 開発基本条例については、題名に「基本」の文言が付されたものは6条例が確認できる。(長野県)「立科町開発基本条例」(昭和48年)、(徳島県)「牟岐町開発行為基本条例」(平成11年)等である。

〇 人権尊重基本条例については、題名に「基本」の文言が付されたものは5条例が確認できる。(大阪府)「島本町人権擁護に関する基本条例」(昭和60年)、(東京都狛江市)「人権を尊重しみんなが生きやすい狛江をつくる基本条例」(令和2年)、「秋田県多様性に満ちた社会づくり基本条例」(令和4年)等である。なお、人権尊重に関する条例については、370以上の条例が制定されている(「人権の尊重と差別の解消に関する条例」参照)。

〇 住民参加基本条例については、題名に「基本」の文言が付されたものは5条例が確認できる。(徳島県)「徳島市市民参加基本条例」(平成21年)、(長野県)「岡谷市市民総参加のまちづくり基本条例」(平成16年)等である。

〇 定住基本条例については、題名に「基本」の文言が付されたものは5条例が確認できる。「東京都台東区定住まちづくりに関する基本条例」(平成3年)、(北海道)「喜茂別町定住促進基本条例」(平成24年)等である。

〇 自殺対策基本条例については、題名に「基本」の文言が付されたものは4条例が確認できる。「相模原市自殺対策基本条例」(平成25年)、(福島県)「郡山市自殺対策基本条例」(平成29年)等である。

〇 障害者基本条例については、題名に「基本」の文言が付されたものは3条例((埼玉県)「共に暮らすための新座市障がい者基本条例」(平成17年)、(埼玉県)「深谷市障害者まごころ支援基本条例」(平成18年)及び(埼玉県)「誰もが共に自分らしく暮らす長岡京市障がい者基本条例」(平成29年))が確認できる。なお、障害者差別解消に関する条例については、120以上の条例が制定されている(「障害者差別解消に関する条例」参照)。

〇 がん対策基本条例については、70以上あるがん対策に関する条例(「がん対策に関する条例」参照)のうち、題名に「基本」の文言が付されたものは3条例((東京都)「日野市がん対策推進基本条例」(平成24年)等)が確認できる。

〇 地域公共交通基本条例については、10以上ある地域公共交通に関する条例(「地域公共交通に関する条例」参照)のうち、題名に「基本」の文言が付されたものは(石川県)「加賀市地域交通基本条例」(平成22年)、「熊本市公共交通基本条例」(平成25年)及び「宇都宮市みんなでつなげる公共交通基本条例」(令和5年)の3条例が確認できる。

〇 高齢社会対策基本条例については、(東京都)「足立区高齢社会対策基本条例」(平成12年)と(福島県)「郡山市高齢社会対策基本条例」(平成13年)の2条例が確認できる。

〇 食品安全基本条例については、40程度ある食品の安全・安心に関する条例(「食品の安全・安心に関する条例」参照)のうち、題名に「基本」の文言が付されたものは(山口県)「岐阜県食品安全基本条例」(平成15年)と群馬県「群馬県食品安全基本条例」(平成16年)の2条例が確認できる。

〇 スポーツ振興基本条例については、60以上あるスポーツ振興・推進に関する条例(「スポーツ振興・推進に関する条例」参照)のうち、題名に「基本」の文言が付されたものは(山口県)「下関市スポーツ振興のまちづくり基本条例」(平成22年)と(愛知県)「春日井市スポーツ振興基本条例」(平成25年)の2条例が確認できる。

〇 官民データ活用推進基本条例については、「横浜市官民データ活用推進基本条例」(平成29年)と「北九州市官民データ活用推進基本条例」(平成29年)の2条例が確認できる。

〇 消費生活基本条例については、140程度ある消費生活条例(「消費生活条例」参照)のうち、題名に「基本」の文言が付されたものは「目黒区消費生活基本条例」(平成17年)の1条例が確認できる。

〇 知的財産基本条例については、3条例ある知的財産の育成・保護を目的とする条例(「知的財産や地域ブランドの育成・保護に関する条例」参照)のうち、題名に「基本」の文言が付されたものは「鳥取県知的財産の創造等に関する基本条例」(平成18年)の1条例が確認できる。

〇 生物多様性基本条例については、10程度ある生物多様性に関する条例(「生物多様性に関する条例」参照)のうち、題名に「基本」の文言が付されたものは「 珠洲市生物文化多様性基本条例」(平成31年)の1条例が確認できる。

〇 ギャンブル等依存症対策基本条例については、「大阪府ギャンブル等依存症対策基本条例」(令和4年)の1条例が確認できる。

〇 行政基本条例については(岩手県)「滝沢市行政基本条例」(平成27年)等3条例が、職員基本条例については「大阪府職員基本条例」(平成24年)等4条例が、行政説明責任基本条例については(大阪府)「島本町行政の説明責任に関する基本条例」(平成16年)が、行財政改革基本条例については(東京都)「千代田区行財政改革に関する基本条例」(平成14年)が、財政運営基本条例については「大阪府財政運営基本条例」(平成23年)等3条例が、公共施設マネジメント基本条例については(滋賀県)「湖南市公共施設等マネジメント推進基本条例」(平成27年)等4条例が、情報基本条例については(福岡県)「春日市情報基本条例」(平成12年)等2条例が、警察基本条例については「千葉県警察基本条例」(昭和29年)が、女性活躍基本条例については(岐阜県)「飛騨市女性活躍推進基本条例」(平成27年)が、多文化共生基本条例については「静岡県多文化共生推進基本条例」(平成20年)が、青少年基本条例については(埼玉県)「春日部市青少年健全育成基本条例」(平成17年)等3条例が、いじめ防止基本条例については(東京都)「千代田区いじめ防止等のための基本条例」(平成27年)が、生涯学習基本条例については(北海道)「士幌町生涯学習基本条例」(平成16年)等2条例が、読書基本条例については(大分県)「中津川市民読書基本条例」(平成25年)が、子どもの遊び場基本条例については(東京都)「千代田区子どもの遊び場に関する基本条例」(平成25年)が、子どもの外遊び基本条例については(神奈川県)「大和市子どもの外遊びに関する基本条例」(平成29年)が確認できる。

 また、認知症基本条例については(愛知県)「設楽町認知症の人にやさしい地域づくり基本条例」(平成30年)等2条例が、感染症対策基本条例については「岐阜県感染症対策基本条例」(令和2年)等2条例が、ワンヘルス推進基本条例については「福岡県ワンヘルス推進基本条例」(令和3年)が、快適な社会づくり基本条例については「いばらきの快適な社会づくり基本条例」(平成19年)が、みどり基本条例については(東京都)「世田谷区みどりの基本条例」(平成17年)等4条例が、地球温暖化防止基本条例については「岐阜県地球温暖化防止及び気候変動適応基本条例」(平成21年)が、低炭素社会実現基本条例については(宮崎県)「五ヶ瀬町における低炭素社会実現のための基本条例」(平成23年)が、空家基本条例については(東京都)「奥多摩町空家等対策基本条例」(平成29年)が、集落振興基本条例については(長野県)「飯綱町集落振興支援基本条例」(平成26年)が、中山間地域振興基本条例については(山口県)「岩国市中山間地域振興施策基本条例」(平成25年)等5条例が、雪対策基本条例については(秋田県)「大仙市雪対策基本条例」(平成29年)等3条例が、四万十川基本条例については「高知県四万十川の保全及び流域の振興に関する基本条例」(平成13年)等関係自治体の条例が、世界遺産基本条例については「山梨県世界遺産富士山基本条例」(平成27年)、(福岡県)「宗像市世界遺産「神宿る島」宗像・沖ノ島と関連遺産群基本条例」(平成30年)等3条例が、雇用基本条例については「北海道雇用創出基本条例」(平成17年)が、経済活性化基本条例については(東京都)「足立区経済活性化基本条例」(平成17年)等2条例が、ものづくり基本条例については(石川県)「金沢市ものづくり基本条例」(平成21年)等3条例が、食と農の基本条例については「静岡県民の豊かな暮らしを支える食と農の基本条例」(平成17年)等2条例、畜産振興基本条例については(北海道)「上士幌町畜産振興基本条例」(昭和38年)が、屋台基本条例については「福岡市屋台基本条例」(平成25年)が、危機管理基本条例については(兵庫県)「三田市危機管理基本条例」(平成27年)等2条例が、暴力団排除基本条例については「岡山市暴力団排除基本条例」(平成24年)が確認できる。

 

【分野別基本条例の概観】

〇 上記で見るように、分野別基本条例は、実に多岐にわたる様々な分野の条例が制定されている。関連する基本法がある分野のものが多いが、そうでない分野のものも少なくない。

〇 制定数として多いのは環境基本条例であり、次いで中小企業振興基本条例となる。しかし、それ以外の分野の基本条例については、題名に「基本」の文字が付されたものを見た場合、必ずしも多くない。数十条例または一ケタの条例数であり、1700以上の自治体があることに比べれば、多いとは言い難い。関連する基本法がある分野の基本条例でも、制定数が1ケタのものも多い。分野別基本条例はあくまでも自主条例であり、それぞれの自治体の判断の結果であるとも言える。

〇 他方で、基本条例とはどのようなものか、どのような条例を基本条例という概念で整理するのか、どういう場合に条例の題名に「基本」の文言を付すのかについては、「何か統一した考え方や基準があるわけでなく、関係者の主観的な判断により便宜的に決められている面がある」(川崎論文69頁)とされる。

 自治体の条例の場合、基本理念、関係者の責務、施策の基本的方向等を規定したいわゆる理念条例といわれるものが少なくないが、このような理念条例のうち、どのようなものを基本条例とするのか、しないのかも、結局のところ、自治体の判断に委ねられていると言える。

 例えば、中小企業振興基本条例について、「基本」の文言が付されたものは400以上あるのに対して、「基本」という文言が付されず中小企業振興条例等とされるものは300程度あるが、全体としてみた場合、両者の間には条例の内容等に大きな違いは認められない。また、犯罪被害者支援に関する条例は670条例以上があり、そのうち「基本」の文言が付されたものは30条例以上であるが、この場合も、全体としてみた場合、両者の間には条例の内容等に大きな違いは認められない。

〇 分野別基本条例の類型として、脇田論文は、①理念・責務型(基本理念規定と責務規定を有するが、目的や理念を達成するための施策は規定していない条例)、②施策・計画型(基本理念規定と責務規定のほか、基本的な施策に係る規定や計画に関する規定を有する条例)、③対策型(一定の行政上の対策をも定める条例)、④実体・手続規定並存型(規制などの実体的規定や手続規定をも併せて有する条例)の4類型を示したうえで、多くの分野別基本条例は②施策・計画型であり、また、①理念・責務型は産業振興基本条例、商工業・商業振興基本条例等に、③対策型は防災・災害対策基本条例にみられ、④実体・手続規定並存型については住宅(住環境)基本条例、土地基本条例等の一部にみられる型である(171頁~172頁)としている。

 ④実体・手続規定並存型については、例えば、「高知県土地基本条例」は協議、命令、立入調査、罰則等の規定も置いているが、川崎論文は「基本条例の中には、各種規制措置、監督措置、罰則など、実体的な規定を含むものも少なからずみられる。基本条例だからといって、実体的な規定を含むものは適当ではないといったようなことはなく、むしろその分野の政策について理念的なものから実体的なものまでバランスよく総合的に規定している方が妥当なこともあるというべきである。」(90頁)としている。

 他方、例えば、「日の出町お年寄りにやさしい福祉基本条例」は医療費の助成や人間ドックの費用負担等の具体的施策のみを、「牟岐町開発行為基本条例」は開発行為の届出、指導、勧告、命令、公表等の具体的手続のみを定めており、理念や施策の基本的事項に係る規定はなく、こうしたものまでも「基本条例」の範疇に入れるべきなのかは、疑問なしとしない。

〇 法制執務研究会「新訂ワークブック法制執務第2版」(ぎょうせい 平成30年 以下「ワークブック法制執務」という。)は、基本法について、「これらの法律は、教育、環境、少子化社会対策等国政に重要なウエイトを占める分野について国の制度、政策、対策に関する基本方針を明示したものである。」としたうえで、「したがって、・・・特に前文を置いて、その制定の背景、決意、ねらい等を格調高くうたい、あるいは、・・・第1条の目的規定において、施策の『基本となる事項を定める』旨を明らかにするのが通例である。」(151頁)としている。

 分野別基本条例の場合、こうした規定の仕方をするものは少なくない(特に、環境基本条例では多い)が、そうでないものも多く、個々の条例により規定の仕方は様々である。

〇 また、ワークブック法制執務は、基本法について、「その規律の対象としている分野については、基本法として他の法律に優越する性格をもち、他の法律がこれに誘導されるという関係に立っている。」(152頁)としている。

 基本条例に関しては、礒崎著書は、条例の体系は自治基本条例、分野別基本条例、実施条例という三段階の構造になっているとしたうえで、自治基本条例は他の条例に対して、分野別基本条例は実施条例に対して、行為規範として優越的・指針的な意味を認めてよい(33頁)としている。

 しかし、現に制定されている分野別基本条例を全体として見た場合、当該分野の実施条例に対して優越的・指針的な機能を有していると見られるものもあると考えられるが、そもそもどこまで優越的・指針的な機能を期待して制定されているのか、また、実際にどのような機能を果たしているのかは、必ずしも定かではない。

〇 (北海道)「ニセコ町まちづくり基本条例」(平成12年)は、「町は、この条例に定める内容に即して、教育、環境、福祉、産業等分野別の基本条例の制定に努めるとともに、他の条例、規則その他の規程の体系化を図るものとする。」(56条)と規定している。この規定は自治基本条例・分野別基本条例・実施条例等の間の体系化を図ることを意図しているものと考えられるが、ニセコ町の条例のうち題名に「基本」との文言が付されたものは「ニセコ町環境基本条例」(平成15年)の1条例だけであり、現にそうした体系化が図られているとは言い難いものと思われる。

 また、全国の自治体の分野別基本条例の制定状況を見た場合、環境基本条例については制定数が多いものの、他の分野の基本条例については2ケタ以下の制定数であり、全国の自治体を見渡しても、自治基本条例・分野別基本条例・実施条例間の体系化が図られているとは認めがたい。

 条例の体系化について、川崎論文は「分野の区分そのものが難しいだけでなく、基本条例を整然と、かつ整合的に整備することは実際にはかなり困難であるように思われる。」(73頁)としている。



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